実用化の壁は「連携してくれる企業」が出てくるかどうか

スギ花粉症に対しての「経口免疫療法」の試みも、これまでにいろいろと行われてきたが、実用化するには至らなかったという。その理由について、前出の高野氏はこう話す。

「アレルゲンの一部を化学合成し、モデルマウスに経口投与すると、花粉症の症状が改善する。このような研究結果は、以前から発表されていました。しかし、商品化しても高額になってしまい、採算を取るのが難しいこと。アレルゲンが胃や腸で分解されてしまうため、腸全体に届かせるには大量のアレルゲンが必要になってしまうこと。これらの理由から、研究開発を中止せざるを得なかったのです」

このような問題点を克服できたのが、コメだった。コメを利用したことで生産コストの削減に成功。たが、効果はそれだけではなかった。

「花粉米を経口投与したほうが、合成たんぱく質(アレルゲン)を直接投与するより圧倒的にパフォーマンスがよかったのです。同じ効果を得るのに、アレルゲンの使用量が20分の1で済みました。この予期せぬデータを得られたことで、スギ花粉米の開発プロジェクトがスタートし、いまに至っています」(高野氏)

「スギ花粉米」の拡大写真。左が籾(もみ)で、右が精米したもの(白米)だ。

ただ、課題もある。ひとつは、スギ花粉米が「食品」ではなく「医薬品」であるという点。高野氏はその難しさをこう解説する。

「まずは医薬品としての承認を厚労省から得なければならない。しかし、これを受けられるのは医薬品の製造販売の許可を持つ業者に限られます。これまで農研機構も製薬企業に直接打診してきましたが、連携してくれる企業は見つかりませんでした」

そこで2017年度から、オープンイノベーションによる開発へと方向転換することに。

「現在、農研機構ではスギ花粉米の研究結果や情報を公開し、参画機関や企業を広く募集しています。いま行っている臨床研究の結果によっては、協力してくれる企業が現れるのではないかと期待しています」(高野氏)

医薬品として実用化されるためには、治験から承認申請までに少なくとも5~6年はかかる。スギ花粉米が市販されるまでの道のりはまだまだ長い。だが、スギ花粉米の商品化が実現すれば、花粉症で悩む人たちが殺到することは容易に想像できる。

その結果、花粉症に悩む人々の数が減少していったとしたら……。マスク、メガネ、コートなど、花粉症関連ビジネスで売り上げを伸ばしてきた企業にとってはユーザーの激減にも繋がりかねない、大きなインパクトとなるだろう。スギ花粉米には、花粉症ビジネスの勢力図を一変させかねないほどの破壊力が秘められている。