やりたいことを実現するには、周囲の人々を味方につけることが大事です。この連載では、研修・講演依頼があとをたたないスピーチコンサルタントの矢野香さんに、他者に好印象をもってもらうスキルについて聞いていきます。

「女性リーダーとして知っておきたい、人との接し方・ふるまい方」をテーマに、セミナーを開催しました。お集まりいただいたのは40人。

今回のテーマについて、参加者の方々にいまの悩みを伺ったところ、「同じことを言っても男性のほうが通りやすい」「女性だと最初から助け舟を出される」という声があがりました。

このテーマで私がいちばんお伝えしたいこと。それは“ヒトとしての快適さ”を意識する、ということです。心理学では人間のことをヒト=動物と考えます。なぜ女性リーダーは、わざわざ“女性”とつけられなければいけないのでしょうか。それはビジネスが男社会だからです。ビジネス行動が、動物の世界で考えるとオスの役割にもかかわらず、現代はメスがオスの役割に入ってきている。そのため男性は「女のくせに」と警戒するのです。

そこで私たちは女性リーダーとしてどうあらねばならないか、考えなければいけなくなったのです。ですから、原点に戻りましょう。ご提案したいのは、あくまでもヒトとしての快適さです。参加者からあがった悩みは、いずれもヒトとしての快適さを軸に考えれば、すべて解決できます。そのスキルのひとつとして、まず知ってほしいのが“パーソナルスペース”です。

イラスト=米山夏子

パーソナルスペースというのは、ヒトとヒトとの快適な距離のこと。一人ひとりの持つパーソナルな距離のことです。たとえば満員のエレベーターに乗っているところを思い出してください。目的階に着くまでの間、上のほう、表示される階数を目で追ったことはないでしょうか。それは、目の前のパーソナルスペースが遮断されたことによる気持ち悪さをごまかしているのです。このパーソナルスペースを意識して人に接することが重要なのです。

セミナーでは、この目に見えないパーソナルスペースを体感していただくために、2人の女性にご登場いただきました。1人はMさん。もう1人はFさん。まずMさんがFさんに近づき、気持ちのいいところで立ち止まり、目を見ながら挨拶をします。終わったら交代します。この実験により、その人のパーソナルスペースを可視化することができます。アメリカの文化人類学者エドワード・ホールによると、ヒトのパーソナルスペースはごく親しい相手の場合は0~45cm、ビジネスでの距離は1.2~3.5mといわれています。今回の場合、MさんとFさんはどちらがよりパーソナルスペースが短かったでしょうか。

答えはFさん。その理由は2人の身長にあります。Mさんは170cm台、そしてFさんは150cm台。ヒトは、身長が低いほうが近づきやすいため、Fさんがより近づく実験結果となりました。一方で、MさんはFさんが近づくと、体の前で腕を組みました。これは無意識の防御です。これ以上、近づいてほしくないというサインです。しかし表情はニコニコ。快適だから笑っているのではありません。緊張の笑顔です。相手が笑っているから大丈夫と思って起きてしまうのが、セクハラやパワハラです。笑っているときは困っているというサインでもあります。人との接し方において笑顔は要注意です。