深夜割増残業代の支払いを回避?

2番目の理由として考えられるのは深夜の割増残業代を支払うことが回避できることだ。法定労働時間の1日8時間を超えた場合は25%以上、午後10時以降の深夜労働は50%以上の割増残業代を支払わなくてはならない。会社にとっては25%の割増賃金ならまだしも50%は避けたいところだ。

また、労働基準法では毎週1日、4週間を通じて4日の法定休日を与えなければならないと規定されている。つまり会社は1カ月に25日働かせることができる。月100時間を上限にすると1日当たりの残業時間は4時間だ。一般的な会社の始業時間は9時、昼休憩の1時間を挟んで終業時間は午後6時。ここから4時間残業すれば午後10時。残業割増率25%で働かせることができるギリギリのラインということになる。

3番目の理由としては月100時間にすれば、ほとんどの企業が現状と変わらずに働かせることができる。現状では、会社が法定労働時間を超えて働かせるには労使で36協定を結ぶ必要がある。その限度時間は1週間15時間、1カ月45時間、1年間360時間だが、さらに「特別条項付き36協定」を労使で結べば、年6回(6カ月)に限り、無制限に働かせることができる。

厚生労働書の調査(平成25年度労働時間等総合実態調査結果)によると、労使協定の締結による1カ月の特別延長時間の内訳で最も多い時間帯は「70時間超80時間以下」で、その比率は36.2%。「80時間超100時間以下」が16.0%。「100時間超」という協定を結んでいる企業は5.5%にすぎない。つまり、ほとんどの企業が月100時間以内に収まることになる。

もうひとつおもしろい数字もある。「しんぶん赤旗」(2014年11月28日付)が主要企業の36協定の特別延長時間について、情報開示請求で得られた調査を掲載している。それによると、榊原経団連会長の出身母体である東レが労使協定で結んだ1カ月の残業時間の上限は「100時間」になっているのだ。

まさか榊原会長が連合の神津会長との交渉で自社の上限時間を意識したわけではないだろうが、奇妙な偶然の一致である。