「アメリカは、日本の教訓に学ばなきゃ」

まずは、身近な労働環境に関わるところから探してみよう。成果主義の導入が働き手のモチベーションを下げてしまう、という現象はモチベーションのクラウディングアウトと呼ばれる。カネのために働くことに嫌気が差す、というのがその理由だ。もっとも、昨今の成果主義導入は人件費削減と同義だった。今どきに限っていえば、ビジネスパーソンのモチベーション低下は、現在と将来見込める所得の減少にあると推測できそうだ。

産業予備軍と聞くと、何やら臨戦態勢にある軍隊を思い出させるが、これは「資本にとって相対的に過剰となった労働者」というマルクス経済学の言い回し。平たく言えば失業者のことだ。「予備軍」という言い方に「今も働く意欲がある」という意味がこもっている。リストラがより身近に迫った昨今、ズバリ失業者とは言いにくい場面で使えるかもしれない。

金本位制(通貨価値の基準が金。現在は違う)の経済の下では、実質価値の高い“良貨”を持ち主が手元に保管するため、市場には実質価値の低い“悪貨”ばかりが流通する、というグレシャムの法則。いわば、「悪貨は良貨を駆逐する」というやつだが、これを曲解して、アクの強いやり手が幅を利かせる職場で、「憎まれっ子、世にはばかる」と、やっかみやあきらめの気分を醸成することはできそうだ。

愚痴るための用語ばかり集めているつもりはないのだが、「100年に一度の不況」、「リーマン・ショック以降」云々は、訪問先で門前払いを食ったとき、ささくれた心の慰めや免罪符ぐらいにはなるかもしれない。

しかし、これを上司や顧客への言い訳に使おうものなら、その途端に営業マンとしての「格」が急落してしまう。そういう意味では禁句といっていい。

次に、雑談に使えそうな世界不況絡みの用語を探してみよう。

借金で膨れ上がったバブルが弾け、借金が資産を上回った民間企業や個人がいっせいに借金返済に走る。その結果、設備投資や個人消費が急激に冷え込む――野村総合研究所主席研究員のリチャード・クー氏は、欧米発の現在の世界不況についてそう分析し、バランスシート不況と名付けている。1990年代末の日本の不況とまったく同じだという。

最近のクー氏のインタビュー記事によれば、今の景気にはこのバランスシート不況と、リーマン破綻というアメリカ当局の大失態の2つの流れがある。ちゃんと勉強しておけば、雑談の中で「景気回復なんてまだまだですよ」「アメリカは日本の教訓に学ばなきゃ」などと知ったかぶりして使える。

流動性の罠も頭に入れておくと安心である。日本銀行など中央銀行が金利を上げ下げして行う金融政策(マネーの増減の調節)が、金利を下げすぎて市場にマネーが過度に溢れたことで効き目がなくなってしまうことを指す。90年代後半以降の日銀のゼロ金利政策でこれが発生した。もっとも、「過ぎたるはなお及ばざるが如し」という意味で使うのはちょっと違うかもしれない。

小泉構造改革の推進役・竹中平蔵元総務相が繰り返していたトリクルダウンとは、金持ちが儲ければ、それは必ず貧しい者のところまで下りてくる、という理論。「そんな単純なものじゃない」と切り捨てた与謝野馨前財務・金融相の言葉を待たずとも、富と名のつくものが下々にまったく下りてきていないことは、誰もが身に沁みていることであろう。