成績下位の大学でも高卒より年収3割増

ただ、ここまで述べたうえで急いで強調したいのは、開成・灘卒業生という対象を超えて広い視野から見渡したとき、そこには重要な「学習の効果」も確認されるということだ。冒頭で触れたように、大卒の経済的効用は高い。とはいえ、一口に大卒といってもさまざまだ。出世している大卒もいれば、そうでない大卒もいる。その違いを説明する1つの鍵が学習する習慣であり、それを私たちは「学び習慣仮説」と呼んでいる。

「学び習慣仮説」とは、いくつかの大卒調査の分析から確認されたものであり、大学教育の効用について次のように考える──大学時代の積極的な学習経験は、本人の知識能力の向上や成長体験をもたらす。その蓄積と体験が、現在に必要な知識能力を向上させ、その結果が仕事の業績などに反映されている。つまり、大学時代の学習が現在の学習につながり、それが所得向上に結びついているという図式だ。

大学という場で学ぶ習慣を身につけ、就業後もそれを維持している者においてこそ、効用はより強いかたちで発揮される。大卒という学歴の効用は、学習習慣の獲得という条件を満たすことによって強化される。

加えて大事なのは、こうした効用がどのようなタイプの大学であっても確認されるという点だ。いわゆるトップ大学と言われるような大学であっても、マス教育を担う大学であっても、同じように学ぶ習慣の力をみることができる。関連して、東京工業大学の矢野眞和名誉教授による分析結果にも触れておきたい。

矢野氏は社会学者らの手による「社会階層と社会移動全国調査」のデータを用いて、常用一般労働者(男子60歳以下)の所得が何によって決まるのかを、学歴、年齢、所得、それに中学校時代の成績というデータを用いて調べた。その結果、中学3年時の成績が上位でも、中位でも、下位でも、大卒の収益率にほとんど差がないことが明らかになった(※2)

たとえば、中学時代の成績が芳しくなく、選抜性が高いとはいえない大学に進学したとしても、進学せずに高卒として働いている者より恵まれた年収を得ることができており、具体的にその額は3割ほど増加する。成績の良し悪しにかかわらず、誰でも勉強すれば報われることが、ここには表れている。

大学教育への不信が広まりつつある昨今である。「有名大学でなければ……」「いまさら学歴なんて……」という声も聞こえてくる。しかし、繰り返せば、高卒と大卒の所得格差は拡大している。データをみる限り、学ぶ習慣には意味がある。考えてみれば、開成・灘卒業生の年収の高さも、中学受験や在学時代の経験を通して培われた学習習慣が支えになっているところも大きいはずだ。学習習慣はどのように身につくのか。非認知能力といったものとの関連性はどうか。課題は山積しているが、学習すれば報われるという点だけは確かであるように思う。

注1:受験情報サイト「インターエデュ」によると、2016年の東京大学合格者数ランキングは、1位が開成(170人)、2位が筑波大附属駒場(102人)、3位が灘(94人)と麻布(94人)、5位が渋谷教育学園幕張(74人)だった。
注2:詳しくは、矢野眞和「教育家族の逆説」(「現代思想」2014年4月号所収)参照。