TPPに参加すればこうした国々とハンディなしの“対等な土俵”に立たされるわけで、高齢化問題を云々する以前に勝負ありとなる。要するにTPPをやるということは、日本は「農業最適地から輸入する国になる」ということなのだ。

こういうことを言うと、「では、いざというときにどうするんだ」という反論が必ず出てくるが、農業を食糧安保論と絡めるのは間違っている。

そもそも日本に石油が入ってこなくなっただけで、コンバインも灌漑用水のポンプも止まる。つまり石油がなければ、日本の農業は一歩も動けなくなるのだ。コメを炊く燃料もない。食糧安保論はためにする議論で全く無意味なのである。

石油備蓄と同じ考え方で穀物などは半年分程度備蓄し、あとはアメリカ、アルゼンチン、ブラジル、ウクライナ、オーストラリア、カナダ、アジアならタイやミャンマーなどに生産地を分散して供給を確保する。これらすべての国に嫌われて交易できなくなるようなら、どのみち日本という国はおしまいである。

「5年後にTPPをやるから、この5年間で日本の農業技術を完璧にマスターしてほしい。そして5年後には世界の農業最適地に雄飛して、日本人の胃袋を満たすために頑張ってくれ。そのための資金ならいくらでも出す――」

本気でTPPを考えるなら、菅首相は農業志向の若者たちに向けてこう言い直すべきだろう。

日本の企業や若い世代が世界の農業最適地に飛び出し、広大な農地と日本の高い農業技術、そして現地の労働力を活用して農業を“マネジメント”する。同じ日本人がつくった農産物なら安心して輸入もできる。日本の農業の未来、食の未来はそうあるべきだと私は確信している。

(小川剛=構成 Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)