北千住駅の東口駅前に巨大なクレーンが稼働している。そこでは東京電機大学の新キャンパスが建されており、住友商事の下で主に施工を担当しているのは大林組だ。大林組は戦前に東京駅の工事を請け負い、その後甲子園球場をつくり、今は東京スカイツリーの建設を手掛けている。東京電機大学の現場は、スカイツリーと並ぶ下町の大規模プロジェクトである。

体の準備のためのラジオ体操と、現場の一体感を醸成するための肩もみは毎日行う。

体の準備のためのラジオ体操と、現場の一体感を醸成するための肩もみは毎日行う。

工事現場では毎朝、作業に取り掛かる前に全員参加の朝礼が欠かさず行われる。最盛期になると1000人以上が参加するが、出席者は大林組の社員だけではない。鳶、鉄筋工、内装業者、設備業者といった協力会社の人々が欠かせないのである。つまり、工事現場とは知らない者同士が力を合わせ、ひとつのプロジェクトを完成させる場なのだ。

朝礼の内容はシンプルで、ラジオ体操、肩もみ、作業内容の伝達の3つである。作業内容の伝達は詳細を極めていて、「何時何分頃から、この区画にミキサー車が入ります。留意してください」といったものだ。それも「周囲の人が危険な様子でしたら、声をかけて気づかせてあげてください」と、何度も繰り返す。

現場を預かる所長、川原純一氏は「安全、品質、納期厳守が工事の3原則です」と語る。

「なかでも大切なのが安全です。工事現場は昨日まで知らなかった人たちが集まる一期一会の世界です。自分だけがよければいいとなったら、危険につながってしまう。現場の一体感を高め、他人への心配りを忘れないようにすることが重要です。思うに、これは何も工事現場に限ったことではありません。ビジネスマンにとって忘れてはならないことだと思います」

工事現場では一瞬の油断が事故に結びつく。欠かさず朝礼を行っているのは、注意を徹底することで安全意識を頭に叩き込んでいるのだろう。

(尾関裕士=撮影)