高校への進学率は、毎年98%前後を推移しています。一方で、学業不振や家庭の事情、進路変更などさまざまな理由で中途退学する人がいます。その数は1990年前後に、年間で12万人を超えるほどに膨れ上がっていました。現在は少子化の影響もあり、5万人ほどになっています。しかし、高校中退者が置かれている状況はこの数十年、大きくは変わっていません。依然として大きなハンデを負い、生きていかざるを得ないのです。

文部科学省が毎年実施する「高等学校卒業程度認定試験」は、かつては「大学入学資格検定(大検)」と呼ばれていました。高校を辞めたり、進学しなかったりした人が、高校を卒業した人と同等以上の学力があるかどうかを認定するための試験です。試験の出題範囲は、高等学校のカリキュラムを編成する基準(学習指導要領)の科目(教科書)に対応しています。試験に合格すると、大学、短大、専門学校などの受験資格が与えられます。

高等学校卒業程度認定試験の問題集や参考書を、「しまりすの親方」というペンネームで書き続ける方がいます。認定試験の予備校や学校、先生、生徒の中では「カリスマ」で、その正体は、都司嘉宣(つじ・よしのぶ)さん(69)です。都司さんは東京大学地震研究所の准教授として、津波などの研究を長年にわたりしてきたことで知られます。娘さんが高校を中途退学したことで、中学や高校の教育、さらに高卒認定試験などのあり方に問題意識を持つようになりました。都司さんのくわしいキャリアは、「“灘中→麻布高校→東大”で、抱き続けた劣等感」(http://president.jp/articles/-/17035)で紹介しました。

対談の相手は、森亜梨沙(ありさ)さんです。高校を1年のときに辞めて、昨年(2016年)、高卒認定受験予備校である、中央高等学院に入学しました。中央高等学院は、通信制高校サポート校であり、大学受験の予備校でもあります。森さんは入学半年後に、認定試験(高等学校卒業程度認定試験)を突破し、東京家政学院大学の入学試験にも合格しました。この4月から大学生となります。

今回から3回にわけて2人の対談を紹介します。この対談を通じて、見えてくるものは何でしょうか、一緒に考えたいと思います。

「高卒」でないとあらゆる道が閉ざされている

今春、大学生になる森亜梨沙さん。

【都司嘉宣】認定試験(高等学校卒業程度認定試験)に合格し、大学の入学試験も合格をされたようですね。おめでとうございます!

【森亜梨沙】ありがとうございます。

【都司】認定試験を受ける人の中には、高校を中退した人がいますね。森さんは、高校をお辞めになったのですか?

【森】1年のときに、体の具合を悪くして辞めました。通学したかったのですが、最後はできないような状態だったのです。その後、しばらくはパン屋さんでアルバイトをしていました。将来を考えたとき、このまま、アルバイトをしていくしかないのかなと思うようになりました。

アルバイト先を探す場合も、求人広告に「高卒以上」と書いてあることがあったのです。何をするのにも、「高校中退」がハンデになると痛感しました。そのようなとき、バイト先の先輩から認定試験のことを教えてもらったのです。

【都司】たしかに、中卒や高校中退のまま、社会に出ることは心細いものがあるかもしれませんね。

【森】高校中退は、最終学歴が「中卒」になります。これが、私の心の中でネックになっていました。後ろめたい思いもあったのです。久しぶりに友人と会ったとき、「今、何をしているの?」と聞かれることがありました。私は、うまく答えられなかったのです。焦りというか、今のままでいいのかな、とよく思っていました。

【都司】そのようなお話を聞くと、切なくなりますね。実は、私の娘も高校を辞めたのです。入学3カ月後くらいから、周囲の生徒からいじめを受けるようになったのです。しだいに話をしてくれないようになったみたいで、本人は学校に行くことを嫌がりました。

当時は大検(大学入学資格検定試験)の頃ですが、私はその試験の存在もくわしくは知りませんでした。本などを買って調べていくうちに、いじめなどを受けて、高校を辞めざるを得ない人がたくさんいることを知ったのです。

ここには、ある意味での世の中の縮図があります。高校という、人生の早い時期に人間社会のもっとも不公平なものといえる「いじめ」を経験するわけです。同級生たちは高校で1日中、勉強をしています。一方で、家の中に閉じこもり、特にすることがない。日が経つにつれて焦りが出てきて、ますますその焦燥感は強くなっていく。ほかの道を模索しても、「高等学校卒業」という資格がないと、あらゆる道が閉ざされてしまっているのです。

【森】本当に負い目しかない……。

【都司】その思いは、とてもよくわかります。高校を辞めた後、家のそばを歩いていると、近所の人から聞かれることがあるのです。「あれ? 何をしているの。高校は?」と。これが、グサッと本人の心にはくるのでしょうね。

【森】「いくつなの?」と聞かれ、「17歳」と答えると、「ああ、高校2年」と当たり前のように言われます。私は悲しいような、悔しいような思いになっていました。