ファンによる「ザ・チョコ愛」~SNSの反響

佐藤さんは「百貨店専門店の高価なチョコと一般チョコの間にスペシャリティチョコ市場を、との思いでスタートしたザ・チョコをいかにマーケティングするか。マニア層はもちろんのこと、狙いは準こだわり層をこだわり層へと持ち上げるための、『体験』を中心としたコト価値マーケティングでした」と語る。

スーパー・コンビニの売り場ではワインのような味のグラフ解説を載せたPOPを添えることで情報発信型の売り場づくりを図った。公式Webサイトも様々な情報を載せた凝った作りで、スマートフォンに完全対応。マリアージュのような概念を伝える体験型セミナー、ワークショップ、テイスティングキットの配布、チョコレート検定など、まさにワインやグルメコーヒー的発想のイベントを何本も打った。

甘味、酸味、ミルク感、果実香など、どんな味かを示すレーダーチャートをPOPに表示。ワインの売り場のような棚作りをしている。

発売後、SNSで一気に反響が広がった。Instagramを見ると、パッケージを撮った写真だけでなく、ザ・チョコのパッケージを使ってノートやキーホルダー、スマホケース、ピアス、しおりなどを作った人の写真も多く投稿されている。顧客が発信するこうしたザ・チョコの楽しみ方は、「#明治ザ・チョコアート」や「#thechocolate」などのハッシュタグを付けて2万5000件以上もInstagramに投稿されている。「こんなに遊んでもらえるとは思っていなかった。お客様の愛を感じます」と、山下さんは感慨深げだ。

Instagramでは「#明治ザチョコアート」「#thechocolate」などのハッシュタグとともに数万件の写真が投稿されている。
ザ・チョコのパッケージを切り抜いて、アクセサリーやスマートフォンケース、ノートなどに加工する人も。

「今年のサロン・デュ・ショコラ東京での反響も非常に大きかった。年々開催規模が大きくなっている人気のイベントなのですが、今年は平日昼間に国際フォーラムで行われたにもかかわらず、開場前に既に長蛇の列。世界中の名品チョコレートが並ぶ中で、明治ザ・チョコの限定品『ドミニカダークミルク』を買うために開場直後に明治ブースへ急ぐ『ドミニカダッシュ』なんて言葉もSNSで見かけたほど。開催4日間に準備していた限定品は、どれもすぐに完売となりました」(佐藤さん)

チョコ専門店が2000円で売るものを、明治なら300円で出せる

「最も嬉しかった手ごたえは、いろいろと食べ比べてくださったお客様から『この価格で出してくれてありがとう』との言葉をいただいた時でした」とは、山下さんの実感だ。メーカーだからこその価格で出せることを舌の肥えた顧客が価値として感じ、メーカーを見直してくれるきっかけとなった。一般チョコの価格が100円で百貨店専門店が1000円という市場で、明治は専門店が1000円で売っているものを200円くらいで作ることができた。2000円なら300円でできるかもしれない。そういった規模の経済と、経験・知見の蓄積が、チョコレート発売90年の明治ならではの強みだ。

「お客様をもっと面白い世界に連れて行きたい。チョコレート市場のピラミッドを大きくしていくという話で、百貨店専門店のマーケットがなくなるわけではない。コンビニコーヒーのように美味しい品質を100円で楽しめる、そういう世界がチョコレートにもあっていい。それが、我々がやるべき仕事だと考えています」(佐藤さん)

和洋生菓子やスナックを抜き、菓子の中で現在市場規模が最も大きいのがチョコレート。2012年頃から年々伸びており、「○○離れ」とは無縁な存在だ。それでも欧米に比べると消費量は少なく、今後も伸びる可能性が高い。一人あたりのチョコレート消費量は日本人は約1.8kgだが、1位のドイツは11.7kg、2位のスイスは10.6kgとなっている(2012年調査)
少子高齢化が進む日本でチョコレートの消費が伸びている理由の一つが「高カカオチョコレート」の人気だ。カカオポリフェノールを多く含む高カカオチョコは美容や健康に良い効果があるとテレビ番組などで取り上げられ、健康のために食べるシニアが増えている。

競合はどこか、との問いに、山下さんはこう答える。「新しい市場を作るべく、日本の空白地帯に打って出ていった商品なので競合は存在しないのですが、気になると言えばショコラトリーやBean to Barなどのクラフトショップ。ザ・チョコはスーパーやコンビニに置いてあるかもしれないけれど、哲学や意識、商品の本質の考え方は専門店と同じですから」。

日本のチョコレート市場は小売金額ベースで現在約5400億円と、10年間で約1400億円伸びている成長市場だ。だがそれに甘んじることなく、いずれは海外進出をイメージしていると語る彼らの視線は、既に遠くをしっかりと見据えていた。

■次のページで、明治「THE Chocolate」の企画書を掲載します