【田原】その後、Googleに転職する。日本のGoogleですか。

【佐々木】場所は日本です。ただ、上司は本社の人間だったので、組織図的には本社と直接やっていました。

【田原】どうしてGoogleに転職したのですか。

【佐々木】ベンチャーでCFOをやっていた当時、日本のIT業界は一流の人が集まっている業界ではないという負い目があったんですよね。なんというか、才能はあるけど、あぶれもの者が集まっているというイメージです。でも、Googleは違って、世界中から英知が集まっている新しいものをつくっているという。それがどのような世界なのか、知ってみたくて。

【田原】数年前、Googleに取材に行きました。創業者のセルゲイ・ブリンは、トップなのにまだスタンフォードに通っていた。Googleは会社なんだか、大学なんかよくわからなくておもしろかった。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【佐々木】まさにおっしゃるとおりで。Googleではまず本社のデータ分析のチームに入って3カ月やったのですが、まわりは博士号を持っている人ばかり。そんな会社があるんだと驚きました。

【田原】Googleでは、どのようなお仕事を?

【佐々木】中小企業向けのマーケティングです。Googleで広告を出す中小企業を増やすことがミッション。日本でそれをやり始めて、そのあとはアジア地域全体の中小企業向けマーケティングの責任者をやっていました。

日本の中小企業のテクノロジー活用度は先進国の中でダントツ低い

【田原】Googleを辞めて、クラウド型会計のfreeeをおつくりになる。会計のサービスをやろうと考えたのはいつごろですか。

【佐々木】発想はベンチャー企業で経理も見ていたときです。経理業務の効率の悪さを分析すると、ボトルネックは会計ソフトでした。会計ソフトが登場したのはいまから約30年前ですが、そこからまったく進化していなくて、あいかわらず手作業で仕訳をしてパソコンに入力している。これを自働化すれば楽なのに、とずっと思っていました。それに、こうした経理のわずらわしさがあるから起業したい人も躊躇してしまう。この問題を解決すれば、起業する人も増えるだろうと。

【田原】そこにビジネスチャンスがあると思ったわけね。

【佐々木】ビジネスになるし、価値を提供できるなと。経理の仕事が簡単になったら、みなさんもっと創造的なことに時間を使えるようになるじゃないですか。そもそも日本の中小企業は、テクロノジーの活用度が先進国の中でダントツに低いんです。たとえば連絡もメールやメッセンジャーじゃなくて、いまだに電話やFAXというところが少なくありません。この意識を変えるのに、会計ソフトはいいきっかけになりまずす。ややこしい経理ですらインターネットでこんなに簡単になるのなら、他のことはもっと簡単にできると感じてもらえるはず。そう考えて起業しました。

Googleでfreeeを作ろうと思わなかった理由

【田原】Googleは新しいことをやる会社ですよね。クラウド会計をGoogleで事業化しようとは考えなかったですか。

【佐々木】難しいと思います。国によって商習慣が違うので、会計ソフトはそれぞれの国で必要です。でも、Googleは一気に何十カ国に出せるものしかやりたがりません。あと、さっき言ったように簡単に起業する流れをつくりたいというのが僕たちのビジネスのコンセプトの一つ。大企業の中でやるのは、そのコンセプトに反するのかなと。まあ、そういった理屈以前に、アメリカ西海岸では起業があたりまえになっていて、Googleの中でやろうとは最初から考えすらしなかったというのが正直なところです。

【田原】そうですか。