データサイエンスとマーケティングリサーチ

【田原】そもそもデータサイエンスに興味を持ったのはどうしてですか。

【佐々木】ミクロ経済学の授業で「ギャンブルをする人はなぜするのか」というテーマがあって、効用曲線を使えば合理的に説明でききるということを知りました。そのときに人の行動を何かしらのモデルで説明しようとする試みって、すごくおもしろいなと思いまして。それを突き詰めたければ、データサイエンスの勉強とか、それこそマーケットリサーチの仕事がいいんじゃないかと。

freee代表 佐々木大輔氏

【田原】具体的にインターンシップ中に佐々木さんはどんな案件をやったのですか。

【佐々木】印象に残っているのは値付けの分析ツールをつくったことです。消費者にとって値段が高いことは必ずしも悪いことではなく、高いから買うという行動も起こります。高級路線の商品は高いイメージをある程度持ってもらうことも必要で、それがいくらなら合理的なのかを分析するツールをつくりました。そのツールはマクロミルでいまでも主要商品として使われていると聞きます。

【田原】やってみておもしろかったですか? 何日も泊り込みで働いたらしいですが。

【佐々木】はい。当時、大学で学んだデータサイエンスの知識をバックグラウンドにしてアンケート調査の分析をしている人はいませんでした。それをやることによって、世の中に必要とされている価値を出せることがすごくうれしくて。普通、学生だとまわりも自分も「若いからこんなものかな」と制限をかけるじゃないですか。しかし、あの会社では何の制限もなく仕事を任せてもらえた。自分が認められているという実感があって、おもしろくて仕方がなかったです。

【田原】でも、過去のインタビューを読むと、逆に退屈極まりなかったとも答えてますね。これはどういうこと?

【佐々木】データを分析するまでの間の行程が長すぎたのです。当時は回答結果がメールで送られてきて、それを手作業で整理しなくてはいけませんでした。日によっては、その作業に丸一日かかる。これは何とかしたいなと思って、自分でプログラムをつくって自働化しました。自働化したら、一日かかっていた作業が20~30分で終わるように。そのぶん分析の仕事に時間を割くことができました。

【田原】自動化って簡単にできるの?

【佐々木】簡単ではないです。ただ、プログラミングを知らない学生が勉強して取り組むにはちょうどいいお題だったかもしれません。数週間みっちり勉強して、試行錯誤しながらつくっていて、3ヶ月くらいで完成しました。その間、他の仕事は一切やらないから、このプログラムだけやらせてくれと会社にお願いして。

【田原】それはすごい。でも、佐々木さんが3ヵ月で自動化できたことを、何で日本の会社はどこもやろうとしなかったんだろう。

【佐々木】たぶん、その作業をしているド真ん中の人達は気付かないのだと思います。後でお話しますが、僕はベンチャー企業のCFOをしていたことがあります。このとき経理の人が入力作業を一日中やっていて、自動化すれば楽なのにと思いました。でも、経理担当の人はその状況に慣れていて習慣になっているから、おかしいことに気づかないんですよね。アンケート調査の集計も同じ。僕はインターンで入ったからフレッシュな気持ちで「こんな作業やりたくない。どうにかならないの?」と疑問を抱けましたが、最初から中に浸かっていたら何も気づかなかったんじゃないかと。

博報堂から投資ファンドへ

【田原】大学卒業後は博報堂に入社された。インターンシップですごい合理化までしたのに、なぜですか。広告代理店なんてつまらないしょう。

【佐々木】おっしゃるとおりで(笑)。じつはインターンシップのときの一番大きな取引先が博報堂でした。インターンシップがおもしろかったので、お金を出している先ではもつともっとすごいことが起きているんじゃないかと考えて入社しました。でも、入ってみるとそうでもなかった。高速道路から一般道に下りるとぜんぶ止まったように見えるじゃないですか。博報堂でもそんな気分になりました。

【田原】博報堂でどんな仕事をやったんですか。

【佐々木】インターン時代と似ています。マーケティングの調査をして、こういう戦略を採るべきじゃないかという提案をする仕事です。唯一、自分が価値を発揮できた仕事は、消費者金融の案件。消費者金融の広告は規制があって、テレビ広告では決まりきったことしか言えません。そこで他社と差別化できないとしたら、店舗のほうが重要なのではないか。そう仮説を立てて、調査員を何十人も使って東京都中の店舗を調査しました。たとえばお店はきれいかとか、看板はどうかといったことと来店者数の関係を調べたのです。これは自分らしい仕事ができたかなと。

【田原】博報堂の後はどうしたんですか。

【佐々木】2年半いて、投資ファンドに転職しました。広告代理店で、これだけ広告するといくら儲かるのかとよく聞かれました。それに対して、僕はしっかり答えを持てていなかった。これからの時代、これは答えなきゃいけない質問です。投資の仕事をしてみたら、その答えを持てるんじゃないかと考えたのが転職のきっかけです。

【田原】さらにその後にベンチャー企業にCFOとして転職する。先ほど言っていた会社ですね。

【佐々木】インターン時代の仲間が立ち上げた会社でした。この商品を買った人はこれも買っていますというようにお客さんに推薦をする機能をレコメンドといいますが、それを小さなEコマースのサイトにでも簡単に使えるようにする事業でした。当時は20人くらいの小さな会社で、ベンチャーキャピタルからお金を集めるというところから手伝っていました。在籍していたのは1年半くらいです。