本人にとっては恐ろしいと思いますよ。やっと慣れたと思ったら、すぐに別の業務に就かされる。それが延々と続くわけですから。他社でぬるま湯に浸かってきた人は、まず駄目ですね。付いていけない。そういう場合は、残念ながらひと月の試用期間で辞めてもらっています。

人間は、現状を否定することからのみ成長ができます。取り柄ができてしまうと、どうしても守りに入ってしまいがちだけど、それでは進歩発展していきません。昔は優秀だった人が、いまでは錆ついてしまって使い物にならない。それは第二次大戦で使っていた武器を、いまでも使おうとするようなもの。現代兵器は比べ物にならないくらい性能に差が出てしまっているのに、それに気付かない。

「5年も同じ部署にいれば化石になる」というのは渥美先生の言葉ですが、化石にならずともシーラカンスにはなってしまう。役職が上がり、現場を離れると、どうしても現場の苦しみの声が聞こえなくなってしまう。人間の習性で仕方ないこととはいえ、これでは気が付いたら社長の周りは全員、保守の抵抗勢力ということになりかねません。でもそれは配置転換しない社長の責任です。

評価基準も同様です。社内で評価すべきは、いままでのやり方を変えて成果が出たときだけ。「それ以外は評価するな」という基本を徹底しています。創造して破壊して、破壊して創造する。そのプロセスが大切なのです。年功序列などは論外です。20~30代を改革に捧げてきた人も、40~30代では歩みが止まるかもしれない。歩みが止まった瞬間、うちでは降格が始まります。当然給料も下がっていく。

厳しいかもしれませんが、これくらいでないと志は成し遂げられません。

僕が社員によくいうことは、「会社のため、社長のため、そういうことは考えなくていい。自分のためにやってください」ということです。

心理学者、マズローによる人間の「欲求段階説」ではありませんが、人間の一番高度な欲求は自己実現です。それが働くうえでの一番のモチベーションになる。単に給与や役職がもらえるということでは弱い。仕事を通じて社会に貢献できるという達成感こそが最高の褒美なのです。そして身につけた知識や技術は、回り回って必ず給与にも結びつきます。だから「いまの2倍、3倍の給与で、他社からスカウトされるような人間になってください」ということもよくいうんです。

(取材・インタビュー 佐藤ゆみ 構成=三浦愛美 撮影=奥谷 仁 写真提供=ニトリ、柴田書店)