【宮内】僕の結論は、睡眠だな。しんどいことがあると夜中に悶々と考えがちだけど、夜に暗い気持ちで下したディシジョンは、たいていロクな結果にならない。だから夜は早く寝て、難しい判断は次の日に明るい太陽の下でやる。

【イチロー】いいですね。でも、寝ようと思って眠れますか。

【宮内】決まったルーティンはないけど、僕の場合は、そこそこの運動をして、美味しいワインを適度に飲む。この組み合わせで、ずいぶん眠りやすくなりますね。やってはいけないのは、枕元にメモ帳を置くことかな。何か思いついたらメモに書こうと思って布団に入ると、やっぱり考えてしまうから。あとは、夜中に悩むくらいなら勉強すること。少しでもマシな経営者になるには、無限の勉強が必要です。悶々として眠れないなら、前向きに本でも読んだほうがいい。そのほうが余計なことを考えなくて済む。

【イチロー】考えないことも大事だと感じています。僕はこれまで野球しかやってきていませんが、人ができないような経験も重ねてきているだろうし、自分なりに物事に向き合い、考えてきた。ですから時には、へたに考えるのではなく、毎日の中にいかに考えない時間をつくるかが重要なことではないかと。頭を白というより透明にする感覚です。

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【宮内】メリハリだね。野球も経営も仕事だから、一生懸命考えるのはあたりまえ。自分が人生懸けてやっている仕事について頭を必死に使って知恵を絞り出さない人がいるとしたらダメですよ。だけど、深く突き詰めて考えるために、あえて考えない時間をつくることも大切。そのバランスを取らないと。

【イチロー】1年を通しても同じことが言えます。野球選手はキャンプが始まると動きが決まったものになるので、シーズンオフにいかにアホになれるかが大事。オフにまで突き詰めてやると、必ずそのツケがシーズン中に回ってきます。

【宮内】今回は何かアホなことした?

【イチロー】わかりやすく先日朝7時まで飲みました。あんなに飲んだのは15年ぶり。もちろん翌日は体調が最悪で二度とこんなことしないと誓いました(笑)。このように失敗ばかりで、どこまでアホなことをすればいいのかはまだよくわかっていませんが、少なくともオフの間までストイックにやるのはバツだということはいえるでしょう。

【宮内】あなたは繊細だから、そうやってバランスを取ったほうがいいよ。

【イチロー】強さというよりも無神経さがあればいいんでしょうけど、僕は細かいことに気を奪われがちなので、いかにいい加減になれるかというのが今後の課題かもしれません。

【宮内】いや、持って生まれた性格というのは変わらないですよ。むしろ年を重ねるごとに磨かれていくものだから、もっと繊細になっていくと思う。そこは覚悟しておかないと。

【イチロー】そうですか。僕のかすかな希望をバッサリと……(笑)。

【宮内】繊細になったらなったで、打ち勝てばいい。自分の性格はごまかせないから、突き詰めて考えるときは、暗くなっても考えるのです。そうやって暗く暗く突き詰めた先に、見えてくるものもある。それで打率が上がるかどうは知らないんだけれど、人間としては必ず深みが出ます。