当初は「管理された環境下」で導入

<当初は、空港やリゾート地など、閉鎖的な管理された環境下で、低スピードで定期的に往復するシャトルバスといった形態をとるだろう。
英国のミルトン・キーンズという街では、人を乗せて歩行者専用区域を移動する電動の2人乗り自動運転タクシー・ポッドを試験的に運行している。こうした無人運転のシャトル便がある程度の期間、問題を起こさずに運行し、安全性が証明できれば、徐々に走行スピードを高め、走行範囲を広げていける。私の予想では、グーグルはおそらく、日常的に運転する消費者にではなく、特定の輸送や移動の問題を解決する手段として、まずは企業や自治体にドライバーレス・カーを販売する。それがいずれ壁を越え、閉ざされた範囲内から外へ跳び出し、街の幹線道路を走るようになるだろう。>(『ドライバーレス革命』より)

この本の中では、いくつかの予想が示されている。調査会社IHSによれば、自動運転車が販売されるのは2025年ごろからで、2035年までに新車のおよそ10パーセントが自動運転車となり(年間1180万台に相当)、2050年以降はほぼすべての新車が自動運転車になる、という。

現在の自動運転車の技術レベルからすると、ずいぶんゆっくりなペースとの印象を受けるが、これは、既存の自動車会社自体が、急激な変化を望んでいないという事情も背景にあるようだ。自動車メーカーの幹部にとって、自動運転車の普及は、かつてのコンピューターのハードウェアの悪夢を想起させる。つまり、ソフトウェアが良ければ、ハードウェアは二の次という世界だ。自動車メーカーは、自動運転車に搭載するAIなどのソフトウェア開発で、先進的なIT企業よりも後れをとっている。消費者が車を選ぶ一番の決め手がAIなどのソフトウェアになれば、既存の自動車メーカーはこれまでのように市場を支配できなくなる。だから、急激な変化はできるだけ避け、キャッチアップの時間を稼ぎたいという思惑だ。

さらに、既存の自動車メーカーには次のような不安もある。

<ドライバーレス・カーは、自動車産業に不確定要素を持ち込む。過去1世紀の間、車を消費者に直接販売するビジネスは成功した。しかし、ドライバーレス・カーが導入されると、消費者がマイカーを買わなくなり、運賃を支払って共用の車を利用するようになるかもしれない。そうなると自動車メーカーはもはや、無人運転タクシーをリースする運輸会社に車体を売るだけの存在になり、これまでのような利益は見込めなくなる。自動車メーカーが、ソフトウェア企業と提携してドライバーレス・カーを製作したとしても、やはりその提携のために、最終的な利益の取り分は減ってしまう。>(『ドライバーレス革命』より)