なぜこんな回りくどいことをするかというと、入り口はちょっと妙だが、そのほうが簡単だからだ。たとえば10のべき乗をならべた数字を見ると、その理由が一目瞭然だ。101=10、102=100、103=1000、104=10000……。

ごらんのように、2乗、3乗、4乗と○乗を示す指数は一つずつ等差的に増えてゆくのに、答えは10、100、1000、1万と等比的に急増する。

そこで、10のべき乗の指数をそのまま目盛りの区切りにしたのが、対数目盛りのグラフ用紙である。10の1乗を示す目盛りが10、10の2乗を示す目盛りが100、10の3乗を示す目盛りが1000である。当然、ひと目盛りの中身は等分ではない。数値が大きくなるにつれ、間隔がせまくなる。この小細工のおかげで、等比的に急増する、あるいは急減する「べき乗」のグラフで、「雲泥の差」や「ドングリの背くらべ」だった部分も、わかりやすい傾斜のグラフとして表すことが可能になるのだ。したがって「べき乗分布」になっていれば、対数グラフに置き換えることで、まったく異なる表情が見えてくる、ということになる。

使い慣れない人には、あまりなじみがないかもしれないし、それで役に立つのかと思われるかもしれない。しかし世の中では結構いろんな分野で使われているのだ。そこで、なにかサンプルはないものかとネット上を探してみたら、一つ興味深いページがあった。ある国(A国)の民族別人口の変化から将来の人口を予測するというページである。

タテ軸は人口、ヨコ軸は西暦を表す。(左)は結果を目盛りの間隔が等差的な「線形グラフ」。(右)はタテ軸のみ対数目盛りを取った「片対数グラフ」。タテ軸の目盛りの間隔は10のべき乗で、等比的に取っている。
図を拡大
タテ軸は人口、ヨコ軸は西暦を表す。(左)は結果を目盛りの間隔が等差的な「線形グラフ」。(右)はタテ軸のみ対数目盛りを取った「片対数グラフ」。タテ軸の目盛りの間隔は10のべき乗で、等比的に取っている。

A国の人口は、圧倒的多数をX民族が占めているが、Y民族やZ民族など複数の民族がおり、なおも増加している。こうしたA国の総人口と、各民族別の人口がどのように推移し増加してゆくか、Excelを利用して分析したものである。1830年から1990年までの各民族および総人口の数値をプロットし、近似曲線で表すと図2(左)になる。べき乗分布の傾向が表れている。人が集まると仕事が生まれ、経済活動が活発になり、さらに人が集まってくるという都市と人口の関係を示す典型的パターンである。つまりy=axのグラフである。タテ軸の目盛りは、100万ごと、ヨコ軸は、50年ごとになっている。目盛りの間隔が等差的な線形グラフである。

しかし図2(右)では、人口を表すタテ軸の目盛りだけを対数目盛りで取った「片対数グラフ」である。その結果、各民族の人口の推移を示すグラフは、ほとんど直線的になった。これならば、人口増加の予想もしやすくなる。

対数の考え方は1594年にスコットランドのジョン・ネイピアによって発見され、1600年代初めに確立された。ヨーロッパ各国に「東インド会社」が設立されたのと同時期だ。ネイピアの目的は、べき乗だらけでやたらと桁数が多くなる科学計算を簡単にすることだったとされる。しかし、対数をもっとも重宝していたのは投資家たちだったのではないか。年利○%の複利で出資すれば、○年後にはいくらになるか、対数のおかげで一目瞭然だったはずだ。

いまやExcelを使えば簡単に対数グラフを作成できるようになった。データの山を前にビジネスの課題に直面したとき、対数グラフがヒントをもたらしてくれるかもしれない。