2014年10月、新浪剛史氏がサントリーホールディングス社長に就任、プロ経営者として話題をさらった。目標に掲げる20年に売上高4兆円は可能か。1兆6000億円で買収した米ビーム社(現ビームサントリー)との統合の効果とこれから力を入れる産業は何か、話を聞いた。
新浪剛史●1981年三菱商事に入社。砂糖のトレーディングなどを担当した後、89年、ハーバードビジネススクールに留学し経営学修士(MBA)取得。91年に帰国後は社内ベンチャーとして病院給食会社を立ち上げる。2002年からローソン社長に就任。14年からサントリーHD社長。

私が投資家なら、ここに投資します

1年前の社長就任会見以来、メディアは私のことをプロ経営者と評しますが、そんな意識は全然ありません。そもそも経営者はプロでなければならない。少なくとも社長を1年以上経験すれば、本当に経営は大変だということがよくわかります。その大変さに慣れている人は皆プロであるはずです。ただ、あえて言えば、これまで日本の大企業では社長を外部から招聘するケースはほとんどなかった。その意味で、企業改革を担えるようなプロ経営者は今後もっと増えていくべきでしょう。事業の収益性を高め、日本の競争力を高めていくことが重要です。

今、日本経済はデフレからインフレへと変わりつつあります。ギリシャの問題もでてきていますが、よほどおかしくならない限りは、日経平均株価もまだまだ上がる余地がある。日本の企業はまだ生産性、効率性を高めることができるはずです。

海外を見渡せば、中国の経済鈍化、ギリシャを含めてヨーロッパの経済が厳しい。アメリカは輸入するよりも国内で生産することのほうが多いでしょうし、日本の輸出企業がこれから大きく伸長することはないかもしれません。

しかし国内においては、観光、健康長寿、エネルギー、ロボットなどの産業は伸びていくでしょう。

特に注目しているのは、健康長寿分野です。今後は医療分野への民間参入も一層認められていくでしょうし、健康長寿向けの機能性があり、自然由来でおいしい飲み物や食べ物の可能性もすごく高まるでしょう。

私は経済財政諮問会議で、2018年まではもう一度消費税の増税があるから、柔軟運営をすべきだと提案した張本人です。残りの増税分2%をうまく乗り切って、本当に経済がいいのなら、思い切りアクセルを踏んで歳出の改革をやればいい。ただし、2%を乗り切るまでは柔軟性を確保すべきです。消費税の2%を甘く見てはいけない。

それを乗り切れるだけの強い力を持てれば、完全に日本はデフレ脱却したと言える。そうすれば国の歳出で経済を支えなければならないという状況がなくなってきます。そのとき代わりに経済を成長させる新しい産業が必要になってくる。それが前述の観光、エネルギー、ロボット、そして健康長寿産業なのです。もし私が投資家なら、健康長寿産業に投資するでしょう。

サントリーもまさにこの分野を強化していこうと考えています。2015年5月には京都に健康・生命科学などの研究を強化する目的で、サントリーワールドリサーチセンターをオープンしました。すでにいくつかのシーズはあるんです。さらに言えば、シーズ自体の買収だってありうる。会社の買収だけではなく、シーズの買収があってもいい。