成功理由その1:創造性を高める「弱い人脈」

本多プラスのロゴ。日進月歩を合い言葉とし、寿運を司る太陽と福運を司る月をモチーフとしている。

本多プラスが事業承継に成功した理由は複数ありますが、私は経営学者として、本多社長の「弱い人脈」「強い人脈」「クリエイティブ人脈」の3つの人脈に注目します。

1つ目の人脈は、創造性を高める「弱い人脈」です。これは米国スタンフォード大学の社会学者グラノベッターが提示した有名な考えです。経営学では、新しいアイデアを生み出すためには、親しい人と強い結びつきを持つよりも、広く浅くいろんな種類の人と弱い結びつきを持った方が有利と主張されます。なぜなら新しいアイデアとは、知と知との新しい組み合わせによって起こるからです。弱い結びつきを大事にすると、人脈は幅広くつながり遠くに伸び、するとその先から自分の知らない情報=知が流れてきて様々な組み合せが試せるからです。グラノベッターはこれを「弱い結びつきの強さ」と表現しています。

もともとミュージシャンを目指していた本多社長は社交的で、アーティスト、クリエイター、デザイナー、経営者と、どんどん弱い人脈を広げていきます。 

実際、本多プラスでは、「弱い人脈」から数々の新しいビジネスが生まれています。自社の成形技術があれば化粧品の容器でもつくれるのではないか、と東京で著名なデザイナーに居酒屋で相談することもあったそうです。そこから、彼らがクライアントに持つ、大手メーカーの経営者を紹介してもらうなど次から次へと人脈は広がり、新しいビジネスのアイデアをいくつも持つことができたのです。

成功理由その2:社内を動かす「強い人脈」

ただし、アイデアだけでイノベーションは起きません。アイデアを具現化して初めてイノベーションは起こるからです。そこで必要な2つ目の人脈が、社内を動かす「強い人脈」です。これは第二創業・事業承継における重要なポイントです。

事業承継でよく起こるのは、後継社長と先代からの社員の対立です。いくら現状を変える必要があるといっても、過去や現在を否定して変革を進めようとすれば、それまで頑張ってきた社員は受け入れられない。相手の気持ちを慮ることなく変革をしようとしても、拒絶されてしまい、古参社員は動いてくれません。何十年も「うちはプラスチック成形屋だ」と胸を張って働いてきた年輩社員に、「下請け状態から脱却するために、東京にデザインオフィスを作り、デザイナーを雇用してビジネスモデルを変えます」といきなり言っても、理解してはくれないでしょう。

そこで本多氏は、先代社長と社員の功労を褒め称えながら、社内のキーマンに丁寧に根回しをし、変革を実行に移してくれる「強い人脈」を社内につくっていきました。絶対に誰とも対立しない。そう決めていたそうです。経営学でも、「創造性の高いアイデアを実現に移すステージでは強い人脈が必要」という研究結果が見出されています。本多氏はまさにそれを実現したのです。

本多孝充社長(左)と、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏(右)。