地方にジャストフィットした政策ができていない

(左)金融緩和は手詰まり感が強い(黒田東彦日銀総裁)。(右)成長戦略が問われている(安倍晋三首相)。(写真=時事通信フォト)

【三浦】私が安倍政権を評価できない最大のポイントは構造政策が無策であることです。たとえば農業改革。農業に競争原理を持ち込むためには株式会社の参入を認めるといった規制緩和をやらなければならないのは目に見えています。しかし解がわかっているのに、自民党は手をつけてこなかった。石破政権なら優先課題として取り組むことになるんですか?

【石破】無策とは手厳しいご指摘ですね(笑)。農業改革も進めていますよ。特区では株式会社の農地所有も認めていますし、私はその担当大臣でもありました。農林水産大臣を拝命していたとき、「生産調整を見直す」と言って、当時の自民党から「史上最低の農林水産大臣」と言われたこともありましたが、今はもうその方向で進んでいます。株式会社の農地所有もその当時から限定的に認めてきています。やりもしないでダメダメと教条主義的なことを言っていても、農地が守られるわけではありません。所有者が個人であれ法人であれ、産業としての農業を行い、生産性を向上させる。法人だから産廃置き場にするなどというのは為にする議論です。株式会社が農地を所有する選択肢も示されるべきだと思います。

【三浦】安倍政権は改革のお題目は並べるんですよね。同一労働同一賃金とか、女性の地位向上とか、あらゆることが書いてあるんですが進まない。進まないのは本気でやる気がないから? やる気を出せばできますか?

【石破】一歩一歩進めているとは思いますが。

【三浦】石破政権ならもっとやるということですよね。

【石破】(苦笑)テレビや雑誌で語ることも大事ですが、私の政治の基本は国民に直接向き合うこと。困難な政策であればあるほど、面と向かって話すことが大切だと思います。先ほど、農林水産大臣のときに「生産調整を見直す」と言って大騒ぎになったと言いましたが、そのときのJA全中の会長さんとは今でも親しくお付き合いしていて、夜遅くまで酒を飲んで話をしたこともある。政治家は常に選挙区に帰って地元の会合で「皆さんこうじゃないですか」と語り合うことが大事だと私は思う。何となく、最近は永田町と霞が関とメディアの中だけで政治が完結しちゃっているような気がするんですよ。

【三浦】それは地方創生大臣を経験しての実感ですか。

【石破】地方創生大臣を2年やって、途中で本当に己を恥じましたね。長いこと国会議員をやって、こんなに日本を知らなかったのかと。日本は1718市町村あって、私はまだ290ぐらいしか行けていません。よく「北海道の経済」って言うじゃないですか。でも北海道には179市町村あるんです。帯広と稚内は全然違うし、旭川と釧路も全然違う。地方でも人口が増えている時代は各地域にジャストフィットした政策じゃなくてもよかったのでしょう。しかし今は高齢化が進み、人口減少が始まって、時間的にも財政的にも余裕がない。ジャストフィットした政策でなければ効果は上がらないんです。地方創生大臣をやって強く感じたのは、地域のことは霞が関でも永田町でもわからないということ。その地域の農業の生産性を上げるために、製造業の生産性を上げるために、移住者を増やすためにどうあるべきというのは、その地域で答えを見つけていくしかない。