ヒスパニック系は本当は誰に投票したか?

たとえばフランス革命は、教科書による整理では、アンシャン・レジーム(旧体制)における特権階級だった聖職者や貴族階級を、新興のブルジョワ階級が打倒したことになっている。しかし、現実にブルジョワ階級が打倒したのは、代々の貴族階級というよりも、多くは買官制によって成り上がった元ブルジョワなのだ。

そういう事実を知ると、次のような普遍的な構造を連想することができるだろう。つまり、今回のアメリカ大統領選挙でトランプ候補は、メキシコなどからの移民の制限を公約として打ち出した。教科書的な理解では、移民排斥を唱える候補に対して、アメリカ国内のヒスパニック系などの移民社会は拒絶反応を示すはずである。

しかし、そうした移民の人々は、すでにアメリカに定住し、社会のなかでおそらくは低賃金の仕事を得ているのである。となると、新規にやってくるかもしれない移民は、自分たちの職や立場を脅かす競争相手になりかねない。

フランス革命前にブルジョワ階級の前に立ちはだかったのは、貴族階級に成り上がった元ブルジョワである。つまりオールド・カマー(前に来た者)はニュー・カマー(後から来る者)に対して脅威を感じ、反発心を持つのが一般的な特徴なのだ。

ということは、アメリカの移民社会のかなりの人たちが、移民に寛容なクリントン候補ではなくトランプ候補に投票したのではないかと推察できる。これで「トランプ当選」のかなりの部分が説明できるのだ。同じように大量の難民や移民が押し寄せているフランスでも、今後、移民社会のかなり多くの人々が国民戦線に投票するのではないかと予言することもできるだろう。

歴史教科書の簡略化された叙述を信じるだけでは、以上のような見通しを持つことは不可能といえる。つまり教科書から学ぶべきなのは、極端に言えば年表と人名などの事実だけなのだ。