後者は「Pay How You Drive」の略で、車両に搭載したセンサーでドライバーの運転行動を分析します。ハンドル操作や速度、ブレーキの使い方など、ドライバーの「腕前」ともいえる運転行動の特徴に加え、夜間・早朝・ラッシュアワーの運転や長距離ドライブの有無などによって、事故リスクを予想し保険料を算出します。「事故を起こしづらい」と認められた優良ドライバーは、保険料が大きく割り引かれます。

欧米で、特に「PHYD型」のテレマティクス保険が広がっているのは、若者の保険料が高額で、車の買い控えが起きているからです。このため若者向けのキャンペーンが行われ、加入者を増やしています。

日本では「等級制度」により、安全運転で事故を起こさなかった人は、すでに保険料が割り引かれています。ただし、そうした判断材料は免許証の色や走行距離など「過去の実績」に限られます。新たに運転免許を取得した若者には、そうした「実績」がありません。一方、テレマティクス保険では、「いまの実績」で判断できます。このため安全運転を心がける優良ドライバーほど、テレマティクス保険が魅力的な商品になるわけです。保険会社からすれば、安全運転のドライバーは事故率の低い優良顧客ですから、そうしたドライバーを囲い込むため、各社がテレマティクス保険を競い合っています。

日本の保険会社は、車両にセンサーを搭載することで、事故の起こりやすい場所を事前に知らせたり、運転傾向を分析したりするなど、「運転支援サービス」を提供していますが、付加的サービスに限られ、運転の仕方で保険料が変わる「PHYD型」のテレマティクス保険は事実上まだ発売していません。

ひとつの理由は、日本の法制度における位置づけが難しいからです。日本の自動車保険制度は、保険業法と自動車損害賠償保障法のもとで精緻に組み立てられており、まったく新しい保険の導入は簡単ではありません。