日本人であっても、練習次第で英語の「ネイティブ発音」はマスターできる。ただし、そのために膨大なエネルギーと時間を費やすことが賢明かどうかは別問題だ。ではどのレベルまで練習するべきなのか。早稲田大学の松坂ヒロシ教授とイーオンの三宅義和社長の対談をお届けする――。

英語教育の一環としての音声学

松坂ヒロシ・早稲田大学教授

【三宅義和・イーオン社長】英語音声学の専門家である、早稲田大学教授の松坂ヒロシ先生にお話をうかがいます。松坂先生はNHKのラジオ英会話や、英語リスニング入門の講師としても有名で、日本の英語発音指導の第一人者です。まず、「英語音声学」というのは、どのようなことを学ぶ学問なのでしょうか。

【松坂ヒロシ・早稲田大学教授】平たく言いますと、発音を科学的、あるいは客観的に扱う学問ということです。方法として、いくつか種類があります。口の動きを研究するやり方もあれば、発生する音波を分析する場合もあります。これを、1つひとつの言語に関して行うのが個別言語の音声学で、対象が英語なら英語音声学になります。

私が興味を持っているのは、英語教育の一環としての音声学です。教師がどうやったら能率良く発音を教えることができるか、また学習者がどうしたら発音が上達するかということ。これらの問題に取り組んでいます。

【三宅】松坂先生は戦後生まれです。最初の英語との出合いは、やはり新制の中学校からでしたか。また、大学で英語を専攻するという道を選ばれた理由をお聞かせください。

【松坂】私は、帰国生でもなければ、また外国人教師が大勢いる私立学校に行ったわけでもありません。普通の東京の公立中学校に入学して、初めて英語を習いました。そのときの教科書が『JACK and BETTY』。いまも手元にあります。

実は、私の祖母が明治生まれだったのですけれども、「英語をやるんやったら、オトをやらにゃあかん」と言いましてね。教科書に準拠したレコードを買ってくれました。聴いた英語が衝撃的でした。なにしろ「That is a table.」が「ダリザツェイボ」に聞こえるわけです。なぜ、そんな発音になるのか不思議に思ったことが、英語音に興味を持った最初ではないかと思います。

その当時、いまは横浜国立大学名誉教授の田崎清忠先生が担当されていたNHKの「テレビ英語会話」も好きで、毎回楽しみに見て、「リピートしなさい」と言われたときには、声を出して練習しました。自分の家の中なので、別に恥ずかしくもないので、大きな声でリピートしていたことを覚えています(笑)。

そうした英語への興味と関心が、結果的に英語教師になりたいという気持ちを醸成させたのだと思います。早稲田大学の教育学部英語英文学科に入学しました。そこで出会ったのが、五十嵐新次郎先生です。先生の英語音声学の授業に、もう本当に魅せられてしまったのです。