「無知の無知」という病は根深い

ソクラテスが最後に訪ねたのは「手に技能をもった人たち」だ。

彼らが、技術について自分よりもすぐれた知恵をもっていることを、ソクラテスは認める。しかし「技術的な仕上げをうまくやれるからというので、めいめい、それ以外の大切なことがらについても、当然、自分が最高の知者だと考えているのでして、彼らのそういう不調法が、せっかくの彼らの知恵をおおい隠すようになっていたのです」(『ソクラテスの弁明』)。

まあ、ソクラテスの鋭いこと。狭い分野の専門家が、世の中全般を知ったかぶってコメントする姿は昔も今も変わらない。見たいものしか見ないネットの世界にも、そんなプチ専門家がゴマンといる。彼は、専門バカの傲慢さについても、とっくの昔にお見通しだったのだ。

問題はここからだ。

僕らは、「ダニング=クルーガー効果」のような話を聞きかじったり、「無知の知」を知ったりすると、自分は「無知の無知」からは免れていると考えたくなる。僕だってそう思いたい。

でも、そうではない。「無知の無知」という病はもっと根深く、ほとんどすべての人間に程度の差こそあれ巣くっている。そこで次回は、現代の哲学者にご登場願って、「無知の無知」の厄介さについて考えてみたい。

斎藤哲也(さいとう・てつや)
1971年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。人文思想系、社会科学系の編集・取材・構成、書評を数多く手がける。監修・編集に『哲学用語図鑑』(田中正人著・プレジデント社)、『現代思想入門』(仲正昌樹ほか著・PHP)、著書に『読解 評論文キーワード』(筑摩書房)、『使える新書』(共著、WAVE出版)など。原稿構成を手がけた本に『大国の掟』(佐藤優著、NHK出版新書)、『おとなの教養』(池上彰著、同)、『古市くん、社会学を学び直しなさい!!』(光文社新書)』ほか多数。「文化系トークラジオ Life」(TBSラジオ)サブパーソナリティーとして出演中。
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