圧縮できた五輪費用は「人づくり」に注入

2017年度の都税収入は企業収益の悪化により6年ぶりのマイナスとなりました。東京都の税収は、企業の納める「法人二税」の割合が大きいため、景気が悪化すると税収が急激に落ち込む構造となっています。リーマンショックに見舞われた08年度から09年度にかけては、1年間で約1兆円の減収となったこともあります。東京都は全国の都道府県で唯一の「地方交付税の不交付団体」ですが、その財政基盤は景気変動に左右されやすく、決して盤石ではありません。

そうした状況で「東京大改革」を進めるには、「バラマキ」ではなく「メリハリ」の行政運営が求められます。過去最大の「メリーちゃん」を頑張った結果、「ハリーくん」として過去最高の382件、829億円の新規事業を盛り込むことができました。

重点施策のひとつは待機児童の解消です。関連する予算額は過去最大の1381億円となりました。前年度からの増額幅は403億円となります。この金額は象徴的です。東京五輪の会場整備をめぐっては、バレーボール会場など3施設について移転を含んだ再検討を行いました。最終的に移転は行わないことになりましたが、再検討によって約400億円の整備費を圧縮できました。再検討で「会場づくり」に使われるはずのお金を、「人づくり」に割り振ることが可能となったとも言えます。

待機児童の解消では、とりわけ保育士不足が課題です。このため新規事業として「保育士等キャリアアップ補助」を実施します。保育士の処遇改善のため、都として保育士1人当たり月額平均4万4000円を給与補助するものです。国の補助3万円分を加えると、賃金は幼稚園教諭と同水準になり、人材の確保が期待できます。事業費は244億円を見込んでいます。

保育所も不足しています。企業主導の保育施設を増やすと同時に、民有地を活用した「保育所等整備促進税制」を新規で導入します。これは保育所をつくることで固定資産税と都市計画税を10割減免するというもので、保育所の用地確保を助けます。

東京都ではこうした取り組みを進めることで、19年度末までに「待機児童ゼロ」を目指します。財政面の負担はありますが、子供を産みやすく、育てやすくなれば、次の納税者を育てることになります。東京の未来のため、この分野には継続的に予算を注入します。

小学生の合唱に私が「涙」を流したわけ

未来を担う人材の育成としては、教育機会の「格差是正」にも取り組みます。都立高校などでは給付型奨学金を創設し、3万4450人の学習活動経費を支援します。

また私立高校においては世帯年収760万円未満の家庭を対象に、国の制度と合わせて、平均授業料まで支援制度を拡充します。家庭の経済状況などにかかわらず、誰もが学べる環境を整え、未来を担う子供たちの成長を支えます。

東京都の予算は、「1つの国家に並ぶ規模」と言われます。一般会計のほか、上下水道や地下鉄などの公営企業会計と特別会計を加えると、総額で約13兆円にもなるからです。為替レートにもよりますが、その規模はスウェーデンの国家予算に匹敵しますが、これまであまり注目もされませんでした。今回の予算案が「都民ファースト」に資するかどうか、ぜひご確認いただきたいと思います。

実は私自身も「メリハリ」を実感することがありました。1月17日に日野市立七生緑小学校合唱団の表敬訪問を受けたのです。NHK全国学校音楽コンクールで4年連続金賞という名門で、都庁で合唱を披露してくれたのですが、涙が出るほど素晴らしい歌声でした。私のミッションは「東京大改革」ですが、激しく議論するだけでは行き詰まります。歌声に耳を傾ける余裕をもちながら、改革を進めなければと感じました。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=藤井あきら 撮影=原 貴彦 写真=時事通信フォト)
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