なぜ、トーマツをやめないのか

【田原】最後にお聞きしたい。斎藤さんはほとんどゼロから始めていまの形をつくった。トーマツの中でやるのではなく、独立したらどうですか。斎藤さんならできると思うけど。

【斎藤】考えていないです。これまで10年間、ベンチャー企業の支援をやってきてわかったことがあります。日本のベンチャー企業はいい技術を持っているのに、なぜ世界に出ていけないのか。それは流通ルートがないからです。野球やサッカーで、流通ルートが切り開かれた途端に世界で活躍する選手が出てきましたよね。ベンチャー企業も同じで、流通ルートがあれば世界で実力を発揮できるはずです。では、どうすれば流通ルートをつくれるのか。それには、デロイトという世界最大級のプロフェッショナルファームにいる利点を最大限に活かしたほうがいい。

【田原】デロイトは世界で何人くらいいるのですか。

【斎藤】いまデロイトは世界約150カ国、22.5万人のメンバーがいます。このリソースを活かして、まずは20~30カ国、ゆくゆくは約200カ国に展開して、日本だけでなく世界中のベンチャー企業と大企業をつなぐ仕組みをつくりたい。これはまた世界で誰もやっていないから、ぜひ成し遂げたいですね。

【田原】わかりました。今後が楽しみですね。

田原さんへの質問

Q. 経営者から聞いた印象深い話を教えてください。

【田原】松下幸之助の話は面白かったですね。「部下を抜擢するとき、どこを見るのか。頭のいいやつか」と尋ねたら、「自分は小学4年で中退したから関係ない」。健康かと問うと、「自分は20歳で結核になり、ずっと治り切らないまま経営をやった。これも関係ない」。誠実さか、「いや、特別に誠実でなくても、1人ひとりにきちんと対応できていればよい」。

じゃ、いったい何ですかと聞くと「運だ」と言う。しかし、運は目に見えません。どうやって社員の運を見抜くのかとさらに突っ込むと、幸之助さんはこう答えました。「難しい問題にぶつかったときに面白がれるやつは、運が向くよ」

これは僕も同感です。いまの若い人にも教えてあげたい言葉の1つです。

田原総一朗の遺言:難題を面白がれ!

編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、QQイングリッシュ代表・藤岡頼光氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、2月13日発売の『PRESIDENT3.6号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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