ベンチャーが立ち上げで困るのは「売上・金・人」

【田原】TVSの立ち上げは2010年10月。現場でおかしな人扱いされていた斎藤さんが、なぜ参画できたのですか。

【斎藤】それまで4年半、いろいろといじめられながらも活動を続けてきたおかげで、社内で「ベンチャーのネットワークなら斎藤が一番だ」というブランドが確立したからでしょう。

【田原】ベンチャーのJカーブを斎藤さん自身も経験したわけだ。底を打って反転するのに、どれくらいかかりましたか。

【斎藤】3年以上はかかったんじゃないでしょうか。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】TVSでは具体的にどんなことをやったのですか。

【斎藤】ベンチャーが立ち上げのときに困るものが3つあります。「売り上げ」、「お金」、「人」です。ベンチャー経営者は、この3つのことで頭がいっぱい。私が会計の勉強をして理論的なことを話しても、「いや、会計というのは売り上げがあがった後の話でしょ。売り上げをあげるためにあなたは何をしてくれるの?」と切り返されて、なかなか相手にしてもらえませんでした。

【田原】相手にされなくて、どうしたのですか。

【斎藤】とにかく人の紹介をしました。経営者は忙しいので、ネットワーキングばかりしているわけにいかない。そこでベンチャーのお客さんになる大企業を紹介したり、メディアに取り上げてもらえるようにマスコミの人を紹介しました。それで売り上げの悩みを解決しようとしたわけです。お金の悩みを持っている経営者には、投資家とのネックワークを広げて、そこにつなぐということもやっていました。

【田原】具体的にはどうやってマッチングさせるのですか。

【斎藤】モーニングピッチというイベントを毎週木曜日に開いています。ベンチャーが大企業に対してプレゼンするイベントで、いいプレゼンができれば、大企業と提携したり、メディアに取り上げられたり、お金が集まったりする。このイベントはいまも続けていて、大企業も150社が参加するようになりました。これまでに登壇したベンチャーは約800社。その中から10数社が株式公開を果たしています。

【田原】モーニングピッチに参加するような人たちはどうやって見つけてきたの?

【斎藤】最初はやっぱり飲み会です。TVS立ち上げ当初は本業もやりつつでしたから、立ち上げ前とやっていることはあんまり変わらなかった。

【田原】でも、こんどは会社公認だから、お金は出してもらえたんでしょう?

【斎藤】たぶん言えば出してもらえたと思います。でも私の中で、まだ成果を出していないのに経費を出してもらっていいのかという思いがあって、結局、自分で出してました。

【田原】じゃTVSを立ち上げてからも状況が劇的に変わったわけじゃないのか。Jカーブ理論でいうと、本当に突き抜け始めたのはいつごろでしょう。

【斎藤】2012年に大手新聞に取り上げられてからでしょうか。ベンチャーのサポートは上や外の人から見てわかりづらい部分があるのですが、大手メディアに載って、社内の人も「認めて応援しよう」という空気になってきた。当初は私一人でしたが、このころから人数が増え始め、いまは150人います。

【田原】メディアの力は大きいね。

【斎藤】はい。日本の大企業の中から新しいリーダーが生まれにくいのも、メディアが書かないことが一因です。ベンチャー経営者は取り上げられるので後に続く人がたくさんいるのですが、大企業の中でチャレンジしている若手はなかなか取り上げられず、若手にとってのロールモデルがいない。そこは変わってほしいですね。