相続税の適正申告はなぜ難しいのか?

「適正申告」をゴールと考えた場合、相続税にはそれを邪魔するさまざまな障害があるといえるだろう。

相続税は、相続開始を知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10カ月以内に、被相続人の居住地を管轄する税務署に納めなければならない。遺族は、愛する家族を失った悲しみに暮れる中、葬儀社や菩提寺との葬儀のやり取り、年金受給停止・介護保険資格喪失といった行政手続きなどに忙殺され、気がつけば四十九日ということも少なくない。

さらに、相続税は「自己申告制度」を採用している。私たちになじみのある固定資産税などは「賦課課税制度」であり、各自治体の評価員が土地評価を行い、算出した固定資産評価額をもとに税金が課される。これに対し相続税は財産評価を「自ら」行わなくてはならない。現金や預貯金などは額面通り、家屋は固定資産税評価額をもとに計上すればよいが、土地など額面が明瞭でない財産の評価は、専門家でもない限り適切に行うことは困難である。しかも面倒なことに、相続財産の一番多くを占めるのが「土地」で、この評価いかんで税額が大きく変わってしまう。

このため、「相続税申告は税理士に依頼する」という方がほとんどである。しかし実をいえば、相続税が得意な税理士というのは必ずしも多くない。ひとくちに税理士といっても、企業の会計経理が専門の税理士と、相続税・贈与税などの資産税を専門にする税理士に大別され、後者の割合はとても少ない。さらに税理士の試験科目には「不動産」に関するものがないため、前述の「相続不動産の評価」に不慣れな税理士が多いというのが実情なのである。

これらの障害を乗り越えるためには何が必要か。一番は「相続専門の税理士」に相談することだろう。こうした税理士事務所の場合、相続税申告だけでなく、生前対策相談にも対応してくれるところが多く、早めの対策を講ずることができる。また、不動産評価の専門家である不動産鑑定士と連携しているところもあり、その場合、「相続不動産の評価」に対して、より信頼がおけるだろう。さらに、相続開始後の複雑な手続きをワンストップで代行するサービスを設けているところもあり、相続の際の強力なサポート役となりうる。

相続税を納めすぎてしまった等、仮に不本意な形で申告してしまったとしても、「更正の請求」という、申告期限から5年以内であれば、評価を適正にし直すことで税金の還付を受けられるという制度もある。こうした制度の活用も視野に入れ、対応していくことが必要だろう。

藤宮 浩
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)代表
株式会社フジ総合鑑定 代表取締役
埼玉県出身。1993年、日本大学法学部政治経済学科卒業。95年、宅地建物取引主任者試験合格。2004年、不動産鑑定士試験合格及び登録。12年、フィナンシャルプランナーCFP登録。04年に株式会社フジ総合鑑定代表取締役に就任し、相続不動産に強い不動産鑑定士として、徹底した土地評価を行うことで有名。主な著書に税理士・高原誠との共著である『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)、不動産鑑定士・小野寺恭孝との共著である『これだけ差が出る 相続税土地評価15事例 基礎編』(クロスメディア・マーケティング)。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。
高原 誠
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)副代表
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。2005年税理士登録。06年、税理士・吉海正一氏とともにフジ相続税理士法人を設立、同法人代表社員に就任。相続に特化した専門事務所の代表税理士として、年間600件以上の相続税申告・減額・還付業務を取り扱う。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。
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