民主党が政権を奪って3カ月が過ぎた。マニフェストを実現しようとしたら、10兆円に近い税収減に見舞われて、子ども手当や暫定税率をどうするか、内閣と党の間で揺れた。最大の目玉は5.5兆円の子ども手当である。民主党の政策の是非を判断する際に、本書は重要な手がかりを与えてくれる。安倍政権の「再チャレンジ」、麻生政権の「定額給付金」、そして今回の「子ども手当」がどういう理念の下で、「生活保障」の枠組みにどう位置づけられているかが理解できる。

「生活保障」とは、「社会保障と雇用が連携し、経済の発展と結びついて実現されるもの」(vページ)であり「一つの『社会契約』である」(36ページ)。著者はその「生活保障」を切り口に、「雇用と社会保障の関係そのものを抜本的に再設計しなければならない時代に入った」(viページ)と認識し、「社会保障と雇用保障の新しい連携」(120ページ)を構想すべしと主張する。そして、第5章「排除しない社会のかたち」で具体案を提示している。新聞などで、雇用のセーフティネット、ワークシェアリング、あるいは民主党政権下での新税調が検討している「給付付き税額控除制度」などが紹介されているが、これらの制度がどういう理念に立脚しているか、その全体像がつかめる。

グローバル化の進展で経済構造が従来の一国単位では成立しなくなり、日本の特徴であった「仕切られた生活保障」(22ページ)が機能不全に陥った。その結果、「やみくもに特権や保護を叩き、これを引き下げることで政治的支持を広げようとする言説」「あるいはそれを見て溜飲を下げる態度」(28ページ)、いわば「『引き下げデモクラシー』が横行する」(29ページ)ようになった。バブルが崩壊して20年も経つ日本で益々閉塞感が強まっているのは、政治だけの責任ではなく、政治の体たらくをことさら強調して報道するメディア、そしてそれを好む国民それぞれに問題があるのだ、と本書を読んで強く感じた。

本書第4章では日本の今後のあるべき「生活保障」のありかたに関して、「雇用と社会保障を切り離していくベーシックインカムという方法と、雇用と社会保障をこれまで以上に密接に連携させるアクティベーションを対照」(ixページ)させたうえで、著者は「社会的な排除を生み出さない、すべての人々を包摂していく生活保障が必要」(143ページ)だとして後者を支持している。今後、日本にとって最大の問題は恐らく雇用問題となるであろうから、アクティベーションの視点が重要になってくる。

戦後最長の景気回復期だった2002~07年で、日本はイギリスと同様に毎年「正規労働者の1%強」(230ページ)が非正規へ移動していることなどに象徴されるように、「生活保障」システムの早急な構築が望まれる。本書は著者の「ウオームハート、クールヘッド」がとてもよく伝わってくる。

※すべて雑誌掲載当時