夏は40℃の作業場夢中で火傷だらけの1年目

30人ほどの職人が働く工房内を見ると、内藤さんのほかにも女性の職人の姿は多い。聞けば、「いまは新入社員の募集をすると、女性の応募が男性より多いくらいなんです」とのこと。だが、女性で副部長を務めるのは内藤さんが初めてで、彼女が入社した1992年当時ともなれば、ここもほとんど女性のいない職場だったという。

子どもの頃から工作が大好きで、絵画教室にも通っていた。同社でガラス製品を作る職人になったのは、専門学校の学生だった頃、この世界に強い興味を抱いたからだった。

しかし、当時はガラス工芸が学べる場は少なく、学校でプロダクトデザインを専攻した後、しばらくは写真スタジオで働くことになった。そして、ガラスの技術を学べる半年間の夜間講座を見つけて通っていた際、知人から教えてもらったのがスガハラだった。

香り、色などを含め、実験室で毎日製品のチェック。同じ製品でも、気温や機械の状態が出来を左右する。

「ガラスの専門誌にもこの会社が載っているのを見ていましたし、製品の世界観にもひかれるものがありました。実は知らないうちにスガハラの製品を買っていたくらいだったので、職人を募集しているのを知り、ここで働けたらいいなと思いました」

スガハラの特徴は、製品の企画やデザインを行う専門のデザイナーがいないことだ。そのかわり、同社では現場で実際にガラスを吹く職人たちが、日頃から新製品の企画を提案していく。その中で採用されたものが、製品として世に出ていく仕組みなのだ。

「自分のアイデアを図案にする職人もいれば、漠然としたイメージを休み時間に試作化し、提案する場合もあります。なんとなく作ったものを工房に置いていたら、『これいいね』と取り上げられることもあるんですよ。ガラスの特性をよくわかっている職人のアイデアは実用化しやすいですし、自分の考えたものが世のお客さまに買ってもらえることは、私たちの大きなモチベーションになっています」

(上)女性職人も毎年増え、今年も2人加わった。班長レベル以上の女性は、内藤さんのみ。(下)右がハシ(ジャック)。軟らかいガラスをくくったりして形を作る。左はコテ板。ガラスの底を平らに整える道具。

例えば、彼女のアイデアが初めて製品化されたのは、入社から1年半後のことだ。それは羽根の形をした箸置きで、やはり休み時間中に作った試作品だった。竿に巻き付けたガラスに息を吹きいれて、型を使わずに形を変えていくもので、一人で作れる製品だった。

ちなみに普段の彼女が同社で担当しているのは、「宙吹き」と呼ばれる技法で作る製品だ。

だが、当時のことを彼女は「あまりはっきり覚えていないんです」と振り返る。最初の1年間はとにかく夢中で、仕事を覚えることに必死だったからだ。

「私は工房でほぼ初めての女性職人だったので、周囲の先輩たちからは随分と良くしてもらったという思いがあります。でも、最初の頃は何度も火傷をしますし、夏はとにかく工房の中が暑くて、新人は耐えられないくらいでした。当時は冷風が出る装置もないなかで、高温の窯の前を行ったり来たりだったので、その過酷さに慣れ、乗り越えるのに懸命でした」