最大の目的関数は再選

交渉戦略やマーケティング戦略においては、関係当事者の目的関数(どのような目的を最上位に置いて、行動を行っているかを読み取るための項目)と制約関数(どのような制約要因を元に、人や組織が行動しているかを読み取るための項目)を把握することが極めて重要だ。

図はトランプの政権運営時の意思決定予測フレームワークであるが、目的関数のなかに記載されている経済状況等の6つの項目は、政権運営マーケティングにおいては支持率に大きな影響を与えるファクターとして重要視されているものである。

トランプの大統領任期4年間における最大の目的関数は再選であると考えるのが妥当だろう。

私のメンターの1人であり実践的な政治学の師匠でもある時事通信解説委員長の山田惠資氏は、「政治家を見るときは、その人物が何を見ているのか、特に再選を志向しているかどうかは極めて重要」と指摘している。また米国においては、「政治家の最大の目的は再選」と議会研究の専門家であるD.メイヒューが述べている。

実は、トランプも大統領選挙の結果が判明した直後の勝利演説の最後の部分において、「2年、3年、4年、そして8年の間、国民のみなさんが私達のために協力したいと言ってくれることを望んでいる」と、既に事実上の2期8年宣言を行っている。

再選を目的関数の最上位に置くと、政権運営マーケティングにおいては支持率や世論調査の結果がトランプにとっての重要なKPIとなってくる。もっとも、ここで重要なのは、全体としての数値ではなく、今回の選挙戦においてメインターゲットとした、コアな支持者層における支持率となるだろう。それは、今回の選挙戦においても、最後の最後まで多くのメディアの予測がトランプの敗戦を予測していたことからもわかるとおりである。

それは、支持率が低迷している現時点においても同様だ。大統領就任演説で、予備選挙中の集会演説のようなスピーチをトランプが行った背景には、ここでしっかりと熱烈なコア支持層を引き止めておくしかないという焦りがあったものと考えられる。

政治マーケティングにおいては、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングという戦略レベルの階層の事項がより重要なのであり、コア支持者層には「賛同」を、一般の有権者には「協力」を求めるという政権運営戦術になるのではないかと考えられる。トランプの勝利の重大要因には、衰退した工業地帯である「ラストベルト(錆びた一帯)」4州(ペンシルバニア州、オハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州)を選択と集中で戦略的に攻略し、白人労働者層を支持者として取り込んだことが指摘される。これらの層がこれからのトランプ政権でのコア支持層であり、トランプの政権運営マーケティングにおいても重要なステークホールダーになるものと考えられる。

なお、トランプの就任演説は率直に言うと失望感の大きいものであったが、それはトランプがコア支持層を主な対象として演説を行ったからであると考えられる。この背景については、「プロファイリングで探る! トランプの『資質』は大統領に適するか」(http://president.jp/articles/-/21170)をご参照いただきたい。