世界がホームなら何も問題は起きない

三宅義和・イーオン社長

【三宅】ところで、先生は「スポーツは文化だ」と言われます。これも非常にユニークな発想で、普通、スポーツはスポーツ、文化は文化というように考えがちなのですが、この言葉の真意はどこにありますか。

【辻】文化というのは、英語で「culture」。語源はラテン語らしくcultivativeだそうです。人として耕され、豊かになる活動を語源としているんですね。そうした活動にスポーツを入れないというのはおかしいと思いませんか。

そもそも、東京オリンピックの開会式の1964年10月10日を、国民の祝日として「スポーツの日」ではなく「体育の日」としてしまい、体育に閉じ込められてしまったわけです。しかも、「文化の日」は別にあります。日本は、国を挙げてスポーツと文化を分けているわけです。でも違います。僕は、文化、カルチャーの中にスポーツもあれば、芸術もあるし、武道もある。読書もあるし、音楽もある、美術もあると思っています。

それでも、2011年に「スポーツ基本法」が定められて、やっと「スポーツは、世界共通の人類の文化である」という言葉が盛り込まれました。世界中のいろんな書物を読むと、スポーツの特質はおおむね4つになるようです。すなわち、医療性、芸術性、コミュニケーション性、そして教育性です。これらが、本来あるスポーツの文化的価値だということになります。

ただ僕は、子どもたちにもわかるように、これによる4つの価値を「元気・感動・仲間・成長」と言い換えました。人間を豊かにしていく心のビタミンをわれわれに提示してくれるのがスポーツだと信じて疑いません。

【三宅】なるほど、とても理解しやすいですね。

【辻】このようにスポーツをとらえると、この特質はプレイヤーだけでなく、同時にサポーターにも当てはまります。応援する側は「見る・支える・話す・聞く」ことで4つの価値を実感する。だから『スラムダンク』のマンガを読むのもスポーツなんですね。

何回読んでも、元気になり、感動し、仲間ができて、成長するということを考えさせられる。そしてそれは、クオリティ・オブ・ライフを高めるための要素でもあります。元気がなく、感動もなく、仲間はいないし、成長しないというのでは、人生はつまらないものになってしまいますからね。

【三宅】最近のアスリートの英語力ですけれども、練習ひと筋で全然勉強していない人もいれば、非常に流暢に話す人もいる。昨今は海外でプレーするし、外国人選手がチーム内に増えてくるのがあたりまえになってきました。これにどう対応していくべきでしょうか。

【辻】「ホーム&アウェー」という言葉がありますけれども、文化や習慣にしてもそうですが、何より語学ができないと、ものすごい疎外感を抱くものです。自分の言いたいことが伝えられず、相手の言っていることがわからないということが、最大のアウェーなんですよ。

【三宅】非常にわかりやすい(笑)。

【辻】やはり人間というのは、アウェーと感じると、それだけで「Non Flow」になってしまいます。そうなるとパフォーマンスが落ち、スポーツなら勝てないし、ビジネスパーソンも実績を残せません。アウェーの生活と文化を知るために必要なのは語学です。だから語学ができないと世界で活躍なんて絶対に無理でしょう。

【三宅】国内では強いけれど、海外に出ると活躍できない選手も多い。

【辻】だから世界がホームだったら、何の問題もありません。その意味でも、英語は大事です。