――白人労働者階級から強い支持を集めた保護主義的な政策を、トランプ氏は公約どおりに実行していくのでしょうか。

トランプ氏はあらゆる貿易相手とのあいだに摩擦を生じさせようとしています。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの撤退、NAFTA(北米自由貿易協定)の交渉再開、中国やメキシコからの輸入品に高い関税を課すなど、彼がやると宣言していることは、どれも自由貿易を妨げる最悪の発想です。TPPから撤退すること自体がすぐに貿易戦争を起こすわけではありませんが、そこへ向かう流れをつくってしまうことはありえます。

しかしトランプ氏は、自分は百戦錬磨のビジネスマンなので、通商交渉の場でもっとよい条件を引き出せると過信しているのでしょう。そもそもトランプ氏は偉大な父親が築いた事業を引き継いだのですし、自分が起こした会社はいくつも倒産させている。彼自身がもっとも成功したのはテレビの世界なのです。

公約に掲げたことをほんとうに実行したら、米国も世界も深刻な問題を抱えることになります。もしトランプ氏が就任初日に公約どおり「中国とメキシコからの輸入品にそれぞれ45%と35%の関税を課す」と宣言したら、すべての資産を売ってどこかに避難したほうがいい。東京はまだましかもしれませんが、そのほかの国や地域は深刻なダメージを被るでしょう。

貿易戦争は破綻するということを、歴史は証明しています。これまでに貿易戦争を制した国などないし、特にしかけた国が勝利を手にしたことなど一度もありません。むしろ、貿易戦争によって国が立ち行かなくなるだけではなく、本物の武器を使う戦争に突入してしまう。まさに第二次世界大戦は、そのような経緯で始まったのです。

――英国が国民投票の結果EUからの離脱を決めるなど、16年は世界に衝撃を与えた「予想外」の出来事が複数ありました。17年の世界経済とお金の動きについて、どうお考えですか?

私はとても悲観的です。特にこれから先2、3年については、とても心配しています。欧州の一部はすでに不況に陥っていますし、今年は政治的な混乱も予想されるため、欧州がよくなる見込みはありません。ラテンアメリカも不況にあえいでいます。

世界経済は08年、巨額の借金を抱えて大きな危機に直面しましたが、現在は当時よりもずっと大きな借金を抱えています。金利が上昇していけば、借金をしている人はさらに苦しくなります。インフレも戻ってきていて、日本もその例外ではない。こうしていくつものマイナス要因が顕在化していますから、このままでは世界経済は数年内に深刻な状況に陥るでしょうね。