言い続けることで、大きなビジョンになっていく

――今、4つうかがった中で、大きなビジョンを最初に作るというのが、スタートアップを始めたい方や、新規事業をやっている方が最初に興味を持つところだと思います。そのあたりを詳しく聞かせてください。

【溝口】実際には起業するというのは、1つの強烈な体験じゃなく、いくつかの強烈な体験があってようやく足を踏み出せるものだと思っています。僕にとってそれは、身を置いていた領域に抱いた違和感です。そこは矛盾や非効率や不誠実だらけだったのが大きく、それを変えたいというのが出発点でした。なので、僕の場合は目の前の解決すべき問題をクリアするために起業したという側面がかなり強いです。その中で僕がなぜビジョンを描けたかといえば、起業前に10年の経験があって、若いうちから長くウェルネス・ヘルスケア領域にどっぷり浸かっていたからこそ、見えた景色があったからだと思っています。

ただFiNCも創業時からテーマは同じですが、本気度は今のほうが10倍ぐらいあります。その理由の1つは、ビジョンを語り続けてきたこと。語り続けることで、それがどんどん自分の細胞にインストールされていく感覚を抱きます。2つ目は、それによって自分の思いに共感してくれたり、具体的に時間とお金を割いて一緒に戦ってくれる人が増えたことだと思っています。口に出すことで自分も本気になってくるし、それを信じてくれた仲間が増えれば増えるほど、より本気度が増していく、そんな感覚です。
 

最初から大きなビジョンは見つからない

――「ビジョンを持てない」という経営者の相談を受けることは多いですか。

【溝口】受けますね。特に若い、学生で起業を目指してる方や20代前半のベンチャー企業に勤めている人、また大企業の新規事業担当の人たちから受けます。僕がよく彼らに伝えるは、「全然いい。ビジョンは最初からなくてもいいよ。最初から持てるものじゃない。」と。

僕はフィットネストレーナーという仕事に一生懸命向き合ってきたから見えてきたものがありました。経験したことがないのに、何かに一生懸命取り組んだことがないのに、「一生かけて全力でやりたい何かがあるんじゃないか」って、そういう“自分探し”をしている。なかなか自分が登りたい山を見つけるのは簡単ではないんですよね。

僕の場合で言えば、トレーナーとして、フィットネスクラブの経営者として、全力で頑張って壁にぶつかってきました。例えば昔、フィットネストレーナーの後輩がたくさんいました。その中には「個人事業主やフリーターじゃ未来が見えないからこのクラブの社員になりたい」と思ってる人がいっぱいいた。彼らは本当に一生懸命働いてるんです。社員よりも頑張っている人がいっぱいいた。でも、彼らを社員にしたりとか、給料を上げられる権限は僕にはなかったんです。

だから僕は、それを変えたいと思ってチーフに出世しました。そうすると今度は、クラブ支配人という存在が上にいました。彼にはお客様に提供するサービスを決める権限があった。ただ直接お客様と向き合っていた僕には、もっと多くのお客様の笑顔を作れると確信していた施策がありました。けれどその施策は一向に通りませんでした。それであれば、自分がクラブ支配人に上がろうと。支配人になったら、今度は部長。部長になったら経営者と、僕は一生懸命努力をして昇進しました。それで最終的に経営者になって、自分のクラブの業績は伸び、救えるお客様の数も増えた。でもそうすると、今度は業界をよりよくしてもっともっと多くのお客様を救いたいと考えるようになった。そして活動をしていたら、講演、執筆、コンサルという仕事が増えてきた。その次は、自分に何かしらの形で関わっている人だけではなく、フィットネスクラブに通ってるかどうかに関係なく、ココロとカラダの健康問題に苦しんでいる多くの人々を救いたい、自分がそれをやらなければいけないという感情が大きくなっていきました。その思いを叶えるには当時の場所では難しいと考えて、FiNCを創業しました。