誰もしていない仕事なら私が最初にやりたい

現場作業も精力的にこなす。マンホールを開けて下水管の内部に降り、センサーを取り付けるのだ。

(上)齋藤さんの1日のスケジュール(下)ヘルメット、作業着、手袋、安全靴な ど、どれも現場作業には欠かせない。調査用カメラも常に携帯している。

「月曜日には、上司から『君は高低差がすごいな』なんて言われます。普段は地下に潜って、休みの日は山に登るわけですから」

彼女はそう言って笑うが、実際の現場はかなり過酷だ。明電舎では下水道処理施設の配電盤など、電気関係のシステムを請け負ってきた歴史があるが、下水道の管渠(かんきょ)にじかに入り込む事業は初の試み。生まれて初めてマンホールの中に入ったときのことを、彼女は今も鮮明に覚えている。

「まず、『うわ』ってなったのは、マンホールの中の臭いです」

下水には湯が流れてくるので、常に温度が20℃ほどある。その生暖かい悪臭にさらされた瞬間、奥へ進むのをためらった。

足元には、髪の毛の固まりやさまざまな種類のゴミ。ネズミが走り回り、管渠の一部は油が固まって鍾乳洞のようになっていた。酸欠の危険がある場所では、ガスマスクを着けて作業をした。

「でも――」と彼女は振り返る。

「下水道の水位をリアルタイムで測る事業は、私たちの会社しかまだ行っていません。だから、ここでやるかやらないかが自分の今後を決めるんだと思いました。誰もしていない仕事なら、私が最初にそれをやりたい、って」

その言葉通り、彼女は仕事への前向きな姿勢を崩すことなく、せわしない日々を走り続けてきた。

とはいえ、最初は一歩前に進むのも一苦労だった。

「都市型水害監視サービス」は、これまで明電舎が行ってこなかった土木・建設分野の事業だ。そのため、土木・建設会社や警察署、国の防災担当者や下水道局の役人など、接点のなかった相手とのやりとりが必要だった。

「上司も先輩もやったことのない仕事でしたから、本当に手探りでした。提出する書類もわからないし、建設会社の人たちからは『この子が本当に現場の責任者?』と驚かれることも多かったです。それでも、当たって砕けろ。下水管に入るのに資格(酸素欠乏危険作業主任者)が必要とわかれば、すぐに自分から取りに行きました。いろんな人にひたすら聞いて、聞いて――の毎日でしたね」