このアプローチは、高い教育を受けた交渉相手や国際経験豊かな交渉相手のなかには、このように機械的に適応しようとされると、いい気分になるどころか侮辱されたように感じる人がいるかもしれないということを考慮に入れていない。したがって、この経験則は国別にではなくケース・バイ・ケースで適用すべきだろう。

ちなみに、文化的規範は、われわれが思っているほど交渉で重要な要因にはなっていない可能性がある。80年代のある時期に、文化人類学者が異文化間の交渉でネゴシエーターがぶつかる具体的な障壁を突き止めようとした。しかし、この試みは失敗した。個々人の経歴やスキル、スタイルや経験のほうが、一般的な文化的傾向より重要であることが判明したのである。

これらのアドバイスのいずれも、異文化間交渉に対する満足のゆくアプローチではなかった。異なる文化的背景を持つ相手との交渉の準備をするにあたっては、次のガイドラインに従うよう心がけていただきたい。

(1)相手の経歴や経験を調べよう

 誰が自分の交渉相手になるかは、少し調べればわかるはずだ。その人物の経歴や経験を詳しく調べよう。相手が国際交渉の経験が豊富な人物だとしたら、文化のステレオタイプ化(およびそれに応じて自分の交渉戦略を変えようとすること)は、古くからのコミュニケーションの問題を解決するどころか、新しいコミュニケーションの問題を生み出す。交渉相手についての情報がなかなか得られない場合には、その会社や組織と接触のある仲介者に頼んで問い合わせてもらおう。

(2)相手の文化からアドバイザーを雇う

交渉相手になると思われる人物に国際経験や異文化体験がほとんど、あるいはまったくないとわかった場合には、相手と同じ文化的背景を持つ人物に交渉の間あなたの「セコンド」役を務めてもらうことを検討しよう。交渉の最中にこのアドバイザーにお伺いをたてるのではなく、事前に合図を決めておいて、休憩をとってアドバイスを受けたほうがよいときには合図してもらうようにしよう。この文化の「案内人」は、あなたが状況を把握する手助けをしたり、必要に応じてあなたを指導したりすることができるし、あなたがひどい間違いや誤解をしたと彼が思ったときは口を差し挟むこともできる。

(3)交渉の展開に十分注意を払おう

交渉の間は注意深く聞くことが大切だ。相手の答えに満足できない場合には、言い回しを変えてもう1度質問しよう。相手が言ったことがいまひとつ理解できない場合には、自分が聞いたと思うことを復唱してみよう。異なる文化的環境の中で生活し、仕事をしている人々は、同じ出来事についても概して異なる見方や解釈をすると思ったほうが無難である。しかし、このグローバリゼーションの時代、個人のレベルではあなたが思っている以上に互いに共有しているものが多いことも、また事実である。

(翻訳=ディプロマット)