そんな空気の中、都内在住の女子高校生が「痴漢抑止バッジ」を考案した。高校入学以来、痴漢に遭い続けていた彼女は「二度と痴漢に遭いたくない」という決意を固め、「痴漢は犯罪です」「私は泣き寝入りしません」と書いたカードを作った。カードをバッグのストラップにつけて通学をしたところ、ピタリと痴漢に遭わなくなったのだ。

イラスト=Yooco Tanimoto

「泣き寝入りしません」と意思を示しただけで、加害者“たち”が彼女を狙うのをやめたのは、とても興味深い事象だ。

警察によると、加害者は「大人しそうなタイプ」を狙う傾向にあるという。なかには「嫌がっていたらやめますよ」と言う常習者もいるそうだ。被害者が怖くて声も出せないのを「OKサイン」と都合よく解釈されてはたまらない。だから、事前に痴漢に対して「NO!」を宣言する彼女のアイデアは効果があった。

加害者は、中高生を中心とした年齢層を集中的に狙っている。社会的に弱く、自分に逆らわないように見える子どもをターゲットとしているのだ。

痴漢は、オトナが子どもに対して行っている性的虐待だ。社会全体がその認識を共有することが、問題解決の糸口になると私は考えている。その解決策の一つとして、「痴漢抑止バッジ」は、加害者への抑止効果があるだけでなく、被害者の存在と意思を可視化するツールとなりうる。周囲の目が「この子を守ろう。何かあれば助けよう」となれば、今の状況も変わるに違いない。

Yooco Tanimoto=イラスト