「アマゾンと戦う」とぶち上げた理由

「話し方」で私が心がけていることは「主語の転換」です。「自分が何を言いたいか」ではなく、「相手が何を聞きたいか」を考えるようにしています。これは我々のような流通・小売業では当たり前のことではないかと思います。「我々が何を売りたいか」ではなく、「お客様は何を望んでいるか」を考えるわけです。

ドンキホーテHD社長 大原孝治氏

たとえば2016年8月の事業戦略説明会では「これ以上、アマゾンが日本に侵攻してくるなら、その先兵になって戦う覚悟がある」とお話ししました。小売業ではEC(電子商取引)が急成長している一方で、実店舗では苦戦する企業が少なくありません。記者の皆さんは「ドン・キホーテはECにどう対応するか」を聞きたいはず。そしてECの巨人はアマゾンです。

いま我々は店舗とほぼ同様の商品を取り揃えたECサイトを始めるために準備を進めています。(2016年9月時点)「アマゾンと戦う」というメッセージは、その取り組みを言い換えたものです。

店舗運営でも、私はいつも口癖のように「自分の店だけを見るな」と言うようにしています。流通業では、世の中の変化にいかに対応するかという視点が重要です。自分の店を見ているだけでは、変化には気付けません。見るべきものは、自分の店舗ではなくお客様なのです。

店舗視察、いわゆる「臨店」の際、私はひとつの店に約3時間をかけます。そのうち自店を見るのは最後の5分だけ。その前の2時間55分は自店の周囲を見るようにしています。競合店の品揃え、駅前や繁華街の雰囲気、住宅やマンションの様子、パチンコ店の客層……。そうした情報を叩き込んでから自店を訪ね、違和感がないかを探ります。もし違和感があれば、店舗責任者と話し合い、ズレの修正を図ります。

主語は常にお客様です。様々な店舗がある中で、その地域のドン・キホーテはお客様からどう見えているのか。お客様の目線に立てない限り、正解は見つかりません。「自店の常識は、地域の非常識」だと肝に銘じるべきです。

ドン・キホーテの各店舗では、近隣店の売価を毎日チェックしています。それは近隣店に競争を仕掛けるためではありません。あくまでもお客様に「損をさせない」ためです。他店で「特売」があれば、こちらも赤字覚悟で値下げをする。お客様に満足していただくのが最優先。「ギブアンドテイク」ではなく、「テイクアンドギブ」です。