これまで長時間労働と低い生産性という2つの悪癖が当たり前のように染みついていた日本の労働環境は、大きなそして急速な転換期を迎えている。日本の成長を支えた団塊の世代が労働市場から消え、残された勤労者は働きながら介護と子育てに時間を取られる。企業にとっては働く人を確保することもままならない。企業にも、働き手にも大変な時代がやってきた。

安倍総理は2016年3月の一億総活躍国民会議において長時間労働の是正を明言し、2016年8月に発足した第三次安倍第二次改造内閣では、初めて「働き方改革担当大臣」が設けられた。政府も本腰を入れて2つの悪癖を直そうとしており、2017年には企業も働き手も否応なく働き方改革を迫られることになる。

なぜこのような急速な変化が起きたのか、そのような働き方改革を支えるのに適したデバイスとはどういうものなのか。2006年以来長時間労働の問題を訴え、産業競争力会議民間議員として政府に助言し、株式会社ワーク・ライフバランスの社長としては数々の企業の働き方を変えてきた小室淑恵氏と、ITデバイスを活用した働き方改革を企業に啓発してきた日本HPパーソナルシステムズ事業本部 パーソナルシステムズ・マーケティング部部長 甲斐博一氏の対談で探る。

【甲斐】ずっと以前から指摘されていた長時間労働と生産性の問題を、2016年後半から急に改善しようとする動きが出てきたように感じます。

【小室】日本人の労働時間は世界で最も長く、特に週49時間以上働く人の割合は他国の2倍もあります。それだけ頑張っているイメージもありますが、労働生産性はもう20年以上も先進国では最下位です。すごく時間をかけているのに成果は出ていないという形ですが、それは90年代の半ばまで日本が人口ボーナス期(※1)にあったことが影響しています。人口ボーナス期には「男性ばかりで長時間労働して均一な組織を作る」ことが勝つ秘訣であり、日本はそこに労働環境を最適化させることで非常に成功し、社会もそれで回ってきました。

株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役社長 小室淑恵
安倍内閣 産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省 中央教育審議会などの委員を歴任。900社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方見直しコンサルティング」の手法に定評がある。著書に『労働時間革命』(毎日新聞出版)『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)等多数。「朝メール.com」「介護と仕事の両立ナビ」「WLB組織診断」「育児と仕事の調和プログラム アルモ」等のWEBサービスを開発し、1000社以上に導入。私生活では二児の母。

ところが90年代半ば以降、日本は人口オーナス期(※2)に入りました。その後不景気が続いたこともあって経営者は人手不足などを認識することはありませんでした。認識が変わったのは3年前に安倍政権になったころ。アベノミクスで景気が少し上向く感覚や、オリンピック関連の受注があったこと、東北大震災の復興の本格化といったことが重なって、それまでの人余り感から一気に労働者の奪い合いになりました。そこで、男女にかかわらず雇用し、かつ効率的に働いてもらい、いかに多様な人材を社内に受け入れるかという勝負にルールがひっくり返ったのです。

日本は既に高齢者の比率が25%と群を抜いて高いのですが、2017年になると団塊世代が70歳代に入ります。厚生労働省のデータでは70代の要介護者の割合は60代の2倍に跳ね上がります。いま、介護離職者が10万人を超えて問題視されていますが、それが嵐の前の静けさに思えるような大介護時代がすぐに来ます。よく騒がれる待機児童が2万5000人、これに対し、特別養護老人ホームに入れない“待機老人”は52万人もいるんです。さらに、いま40代の団塊ジュニア世代は、30代で子どもを作った人が多いため、未就学児を抱えているうちに親の介護が始まるということが起きています。当然、男性も妻が幼い子どもを育児しているところに親の介護まで頼めないので、子育てや介護に主体的に関わっていかなくてはなりません。「育児」「介護」「共働き」が日本社会の中核である団塊ジュニア世代の特徴です。

多くの企業は労働力人口の減少までは予想していて「従来と同じ採用活動だと、だいたい8割くらいの人数になっちゃいますね」と話しています。しかしその実、人数は8割でも労働にかけられる時間は6割ぐらいになってしまうのです。このことをほとんどの企業は気付いていません。言い換えると企業は、7人だった部署を6人ぐらいでやってもらおうというイメージですが、実際は7人の部署を5人か4人でやらなくてはならない。ちょっと頑張ったりお互いにカバーするといった程度では、まったく労働力や労働時間が足りない状況が、2017年に顕在化すると考えています。

政府もやっとスイッチが入って、この3月には働き方改革実現会議が結論を出すことになっていますが、これまで先進国で日本だけになかった労働時間の上限設定がおそらくなされるでしょう。そうすると企業にとっては、取り組むかどうかではなく、どうやって取り組むかという問題になるのです。そういう競争が起きれば業界内で先に取り組んだほうが非常に有利になるので、2017年は労働時間短縮と生産性向上の動きが加速すると思います。

【甲斐】ここ最近、男性の働き方改革が重要だということをよく耳にするようになりました。このことは業種や、都会と地方によって差があるのでしょうか。

【小室】いままで長時間労働前提でやってきた企業ほど、非常に働き方改革が求められています。2015年くらいから、私の会社へ地方の中小企業からの問い合わせがすごく増えました。地方の中小企業は東京の企業に比べたら人が採れない。人が採れないという課題に対しては男性も女性もありません。特に、流出しがちな男性を地元に引き留め自社に採用するにはと考えたとき、ワークライフバランスの訴求が採用に非常にプラスということが分かっています。例えば三重県の中小企業にコンサルティングしたのですが、中小企業はやり方を変えればすごく生産性が上がるので、有休消化が300%になったり、結婚する人が2倍になったり、生まれた子どもの数が2.5倍になるといった劇的な変化が起きました。また、389名の大塚倉庫では、自社の従業員の働き方改革だけでなく、倉庫に荷積みの順番待ちをして長時間労働になっているトラックドライバーに、荷積みの予約ができるスマホアプリを作って提供し、劇的に労働時間を削減しました。

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小室氏がコンサルティングした大塚倉庫株式会社の事例。自社のみならず集荷に来る配送会社ドライバーまでも労働時間を短縮しつつ、物流増加の成果を出している。

【甲斐】現場で企業の皆様に「働き方改革しながらデバイスも変えていきましょう」という話をするのですが、皆さんなぜ改革しなくてはならないのか、小室さんがおっしゃったような状況を知らずに、結構びっくりされるんです。そういう変化に関するトレーニングを受けていないという風にも感じています。

【小室】日本はIT投資に対して非常に消極的ですよね。もし日本に20年くらい前に労働時間の上限規制が設定されていたら、なんでも人手で処理することをやめて、生産性を向上させるためにITに投資が進んで、今ごろIT後進国にならなかったかもしれないと思っているんです。

【甲斐】ここで日本HPが提供している「HP Elite x3」という製品について少しご紹介させてください。「ワークスタイル」という言葉が使われ始めたころ、未来の働き方にどんなデバイスが必要かを考えて開発した製品です。2015年の時点で、すでに37%の人がカフェや家庭など、会社以外の複数の場所で仕事をするようになっています。仕事と家庭の境界線がなくなりはじめているんですね。またオフィス自体も、ただ事務処理を画一的にこなすだけでなく、外にいる仲間ときちんと協働することや、空間自体も雑談ができたり、よりアクティブで創造的な発想ができるような空間であるべきです。そうした働き方を支えるデバイスとして「固定化されたPCをなくし、スマートフォン1つですべてやってしまおう」という提案なのです。

基本的にはWindowsベースのスマートフォンで、もちろんSIMを挿入して電話として機能します。単体でスマートフォンとして使えるだけでなく、「HP Elite x3 デスクドック」に接続すればデスクトップPCとして使え、さらにキーボードと大きく明るいディスプレイを内蔵した「HP Elite x3 ノートドック」に装着するとノートPCとしても使える“3 in 1”の製品です。特にノートドックのような形で出しているのは日本HPだけなんです。

【小室】ずっとこういうのが欲しいと思ってきたんですよ。以前あるメーカーのアドバイザリーボードをしていたとき、こういう製品を提案したのですが、小さくする必要が分からないといわれてしまって。PCと同じパワーを持つデバイスがポケットに入る、このフレーズは本当にいいですね。すてきです。

株式会社日本HP
パーソナルシステムズ事業本部
パーソナルシステムズ・マーケティング部
部長 甲斐博一

【甲斐】CPUパワーだけでなく、落としても壊れない頑丈さや、防水や防塵対策も含めてしっかり作られています。セキュリティ対策も万全です。Windowsなので通常のOfficeソフトが使えることも大事です。スマートフォンの状態でも使えますし、デスクドックやノートドックを使用すればこれまでの普通のPCと変わりません。これはコスト面でも重要で、既存のWindows向けアプリケーションをスマートフォン向けに置き換えるにはかなりのコストがかかるのですが、HP Elite x3ならばデスクトップ仮想化という技術でそのままのWindowsアプリケーションを利用できるのです。

【小室】仕事と家庭の境界線がなくなるという話がありましたが、境界線がなくなるというより仕事と家庭を行ったり来たりするという感覚があります。仕事と、介護や育児の時間が繰り返しやってくる。そうなると介護と育児の荷物がすごいので、普通のノートPCなんか持ち歩けません。小さいけど頑丈で、常にオンラインでいて、いろんなやりとりができるデバイスが必要という人が、いま非常に増えてきていると思います。これから会社が採用するデバイスも「軽さで選びました」なんてことが普通に起きるのではないでしょうか。

「中小企業はやり方を変えれば生産性はすごく上がる。地方の中小企業もワークライフバランスを訴求すれば都会の大企業に人材採用で勝てるんです」(小室氏)「『HP Elite x3』は仕事と介護や子育てを行ったり来たりするような働き方に必要なデバイスとは何かを考えて開発しました」(甲斐氏)

(※1)人口ボーナス期:若者の比率が高く、高齢者の比率が非常に低い人口構造の状態。安い労働力があふれるため、早く安く大量に仕事をこなすことができる一方、社会保障費は低く抑えられ、国としては国富をインフラ投資へ回すことで爆発的な経済発展が実現できる。
(※2)人口オーナス期:若者の比率が低く、高齢者の比率が非常に高い人口構造の状態。人口構造が経済に対して重荷になる時期。人件費は上昇し海外からの仕事が減り、高学歴化によって男女の結婚・出産年齢が上昇して少子化が進む。労働力人口が減少し、引退世代を支える社会保障制度の維持が困難となる。