「体験」を重ねる方法論

「電車×食」のケースで言えば、まるで屋台のようにおでんが味わえる「おでん電車」や、生ビールが飲み放題の「ビール電車」など、ユニークな事例もあります。また電車ではなく、観光バスで食事が楽しめる「レストランバス」も登場するなど、移動と食の組み合わせは広がっています。いずれも目的地への単なる移動ではなく、気の利いた食を絡めることで、「総合的な体験」に仕立て上げているわけです。

高価格帯のレストランでは、この数年「ペアリング」が一気に広まりました。ペアリングとは、コース料理の一品ごとにあわせて、それにふさわしいドリンク(主にワイン)を少量ずつ提供するスタイルです。もちろん好きな飲み物を頼むのも良いですが、ペアリングによって店側の「こうやって味わってほしい」という想いをより受け取りやすくなっています。味わっているのは料理や飲み物というよりも、より「体験」に近づいていると言えるでしょう。

また、コンテンツの世界では、近年ますます「編集力」や「プロデュース力」が問われるようになってきています。ユーザーにどのような「唯一無二の体験」を提供できるかを考えていくときに、「食」と「食以外の何か」を掛け合わせるという方法論は、大きなヒントになるのではないでしょうか。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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