大企業は“黒子”になれ

経営環境の変化により、ボーングローバル企業は今後も増えていくと考えられます。このような時代、伝統的な大企業には、「より規模の大きな企業が上座に座り、より規模の小さな企業が下座に座る」といった従来の考え方を改めることが求められます。

スマートフォンを中心に半導体で大きなシェアを誇る米国のクアルコム(Qualcomm)は、創業したばかりで従業員が20人にも満たないシャオミとの間で契約を結びました。このように、相手が小さな企業であっても、将来性が高いと判断できれば、トップがしっかりとコミットしてリソースを投入する姿勢が求められます。大企業は身軽なボーングローバル企業にフロントランナーを任せて、自分たちは“黒子”として、それを支援するインフラを提供するような発想の転換が必要です。

日本においてボーングローバル企業が成長するには、スタートアップと大企業がより強いつながりを持つことが課題です。海外では、ボーングローバル企業の多くが大企業の協力を取り付けることで、強い競争力を実現しています。両者が連携することによって、ボーングローバル企業の時代を互いに繁栄していくことができるはずです。

また、規模を問わず、どの企業も、世界的な価値連鎖の中での自社のポジションを考えるべきです。ハイテク素材メーカーの信越化学工業や電子部品メーカーの村田製作所などのように、自らの強みを活かしながら、別の強みを持つ世界中の企業と連携する、柔軟な合従連衡の推進が重要となります。

日本でも、フリマアプリのメルカリ、ネット印刷のラクスルなど、ボーングローバル企業として期待される企業が登場しています。現状はインターネット関連事業に偏っていますが、今後、幅広い産業領域で、規模の小さな多国籍企業が増えていくはずです。

日本は経済規模が大きいだけに、国内市場に依存して海外に進出するインセンティブが起きにくい傾向があります。しかし、国内市場は確実に縮小していきます。海外のボーングローバル企業が世界中の有望な企業と連携してモノづくりを進めている今、日本製と日本企業だけにこだわっていては、本当に競争力のあるものが作れなくなるかもしれません。

また、事業環境として人材が流動化しにくい雇用制度もマイナスに働いています。日本の行政は、ボーングローバル企業の成長を後押しするために、そういった企業に優秀な人材が環流し、国際展開できるような環境整備を積極的に進めるべきでしょう。

かつて、ソニー、ホンダ、キッコーマンなど、多くの日本企業が早い段階から海外に積極的に進出していきました。当時のような気概を持つことができれば、日本発のボーングローバル企業はこれから数多く出てくるはずであり、そうした企業が新しい日本をつくるのではないかと思います。そのうち、近所のラーメン店のオーナーが「実はうち、イスタンブールにも店を持っているんだよね」と話すような時代が、きっとやってくるはずです。

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