スピーチとアジテーションの違いはなんでしょうか?

「スピーチは、メッセージの中身で相手を説得するもの。エモーションよりもロジックに重点を置いたコミュニケーション。これがスピーチです。トランプはスピーチよりもアジテーションがうまい。演説を文章に書き起こしたら論理的ではないのですが、エモーショナルな情感に強く訴えかけるから、聴衆は共感し、興奮するわけです」

プーチンは全く逆の印象です。

「彼のスピーチはダボス会議でも間近に聞いていますが、それほどうまいというわけではない。彼はスピーチやアジテーションで勝負するタイプのリーダーではありません。クールで物静かな雰囲気でポーカーフェース。喜怒哀楽を顔に出さない。それが彼の強さや威厳の演出です。ある種の威圧感、怖いなと思わせるスタイルを意図的に発信しています。全然違うスタイルですが、2人とも言葉以外のメッセージの発し方が見事です」

実際のプーチンは?

「とても冗談好きな男です。マイクとかカメラが動いているときは仏頂面ですが、オフレコになったとたんに、ジョークは飛び出すし、笑顔も見せる。自分をきっちりと演出している。

プーチンの前の大統領はご存じのようにエリツィンです。エリツィンは大衆的人気がありましたがプーチンはエリツィンとは対極の、実務能力があって冷静な判断能力もあるリーダーを見事に演じ続けている。彼の経歴からすると、そのほうが絶対ハマります。KGBでエージェントとしての訓練をとことん受けているのですから」

大衆が求めるリーダー像は単純に一つではない?

「演出というのは、自分の中にいくつもの自分を育て、状況に応じて様々な人格を使い分ける多重人格のマネジメントができるということです。でも、状況に合わせて変えるだけでは、単なる無節操。これではリーダー失格です。切り替えるべきところは切り替えるが、そうでないときは自分のスタイルを貫く強さを持つ。プーチンから学ぶのはそこでしょう。ロシアが吹っ飛びそうな場面になってもあの雰囲気を通すと思いますよ。それができるのがトップリーダーだと思います」