町の手前で馬車を降り、自転車を返却し終えると、私たちは広場で一息入れることにした。ビールを注文し、椅子に身を沈めた途端にどっと疲れが押し寄せてきた。私たちは、レンタルサイクル店が3台の自転車を何も言わずに引き取った理由について話し合った。店主は、レンタル品を破損させた私たちに対して賠償責任を求めなかった。

「客から返金を求められなかっただけでも助かったって思ったんじゃない?」

すぐにパンクする自転車を貸した方が悪いのか、壊したほうが悪いのか……。いや、もしかしたら店主には、損害賠償などという西側的な概念が、そもそもなかったのかもしれない。

運ばれてきた缶ビールの栓が、くすぐったい音を立てて開いた。

「お疲れさま! 乾杯!」

流した大量の汗を埋め合わせるように、ビールが体中に染み渡っていく。

「最後の楽園」

人がこの国をそう呼ぶ気持ちは、わからないわけではない。ただキューバに限らず旅する者の心には、いつだって楽園は存在している。

撮影=中村安希