いま賃貸経営に関心を抱く人が増えている。どんな利点や魅力があるのか。どんな意識や取り組み方が求められるのか。素朴な疑問の数々に対し、現場と実践にこだわる不動産コンサルタント、長谷川高氏が答える。

自ら考え、行動することで物件の価値を高められるのは賃貸経営の魅力の一つ

長谷川 高(はせがわ・たかし)
株式会社長谷川不動産経済社 代表取締役


大手デベロッパーの投資担当としてマンション・ビル企画開発事業に携わったのち1996年に独立。以来、一貫して個人・法人の不動産と投資に関するコンサルティング・顧問業務を行う。「不動産を分かりやすく伝える」ことをモットーに、講演や執筆活動など幅広く活動中。著書の『家を買いたくなったら』(WAVE出版)は累計10万部を超えるロングセラー。

 

賃貸経営だからこそのメリットや魅力がある

──賃貸経営市場の現状をどのように見ていますか?

【長谷川】やはり関心を持つ方は増えていますね。目的はそれぞれですが、まとまった資産がある方々にとっては、まず2015年に改正された相続税制への対策もあるでしょう。現金よりも不動産、そして自宅よりも賃貸物件のほうが相続税評価額は下がりますので。ただ賃貸物件に対する優遇措置を活かすには、高い入居率を維持していることが条件です。

土地の固定資産税も、更地より賃貸住宅が建っているほうがずっと軽減されますし、賃料収入で相続税、固定資産税の支払いにも備えられます。

節税よりインカムゲインの方が目的という人もいます。銀行にたくさん預けても利息はほとんど得られない昨今、金融商品への投資も選択肢ですが、より安定感のある賃貸経営に視線が集まっているのです。

一方で、空いている土地や、それほど大きな資産はないというビジネスパーソンの間でも、賃貸経営への注目度は上がってきています。過去20年ほどを振り返っても、多くの企業が危機を経験しました。同様のことが将来また起こらないとも限らない。リストラのリスクも感じています。そこで、いまからリスクヘッジの行動を起こす方々もいるわけです。

──長谷川さんご自身は、どのようなところが賃貸経営の魅力だと考えていますか?

【長谷川】例えば株をはじめとした金融商品の場合、投資対象となる企業の業績や株価そのものを見通すことは、プロのアナリストでもなかなか難しいでしょう。これだけグローバル化した世界では、大手企業でも将来の予想は困難です。

ところが不動産なら、現物を自分の目で見ることができます。立地、周辺環境、建物のプラン、賃料相場などを実際に見て知った上で、投資を決断することができます。そもそも株などに比べ、初心者にも分かりやすい要素が多い。この実感として「分かる」という感覚は本来、投資や資産運用において非常に大切で、賃貸経営を選択するメリットの一つだと思います。

さらには、自分の感性を生かした建物をつくったり、購入物件によってはリノベーションするチャンスもあります。自分がデザインし、潜在的な借り手に向け提案することで、収益や物件価値のアップが実現する──それは株式投資などでは体験できない魅力だと思います。

成功への道は一般のサービス業と同じ

──賃貸経営を始めるにあたっての心構えを聞かせてください。

【長谷川】賃貸経営に関心を持つ人は増えていますが、もちろん簡単に高収益が得られるわけではありません。「産業の外部変化のうち、人口数、年齢構成、雇用、所得等、人口にかかわる変化ほど明らかなものはない。見誤りようがない。もたらすものの予測も容易である」。これは、ピーター・F・ドラッカーの言葉です。

日本は就労人口の減少の時代を迎え、住宅であれオフィススペースであれ、賃貸経営の競争は次第に激しくなるでしょう。それは当然、どんなモノやサービスの市場にも共通する環境変化です。

競争に勝つには、地道な努力が大切です。よい不動産物件を見つけたり、よい賃貸住宅をつくったり、そのためのパートナーとなる優れた不動産関連企業と出会うことも重要でしょう。現代の賃貸業は一般のサービス業と基本は同じで、顧客サービスに徹する必要があります。

いずれにしても、私が強調したいのは、成功へのウルトラC的な方法は存在しないということ。いま順調に経営している方々も、その成功はご自身の努力の賜物に違いないのです。

シミュレーションだけを頼りにしない

──どんな努力をしていけば、賃貸経営の成功に近づけるのでしょう?

【長谷川】一言でいえば、やはり自分でしっかり動くことですね。賃貸経営を始めようという人のなかには、収支のシミュレーションだけに没頭してしまう人がいます。エクセルに数字を入れ、それをいろいろといじってリスクを含めて納得してしまう……。もちろんシミュレーション自体は大事ですが、それはあくまで机上の計算。具体的な立地、周辺環境、物件の状態や間取りなどを抜きに考えてしまっては本末転倒です。

また先ほど触れた借り手が好む建物の外観、内装、設備などが実現するように自分でも考え、物件のバリューアップのため動くこともお勧めです。

経営を始めてからも努力は続きます。競争環境のなか、大家さんとして借り手に提供できる付加価値を練り、攻めの姿勢で実行に移す。ともあれ主体性が重要で、次の三つの条件をクリアできれば、賃貸経営が成功する可能性は大きく高まります。まず「よい借り手に長く住んでもらう努力」、次に「空いたらすぐ埋める努力と工夫を怠らない力」、そして「家賃滞納や問題のある借り手を迅速に解決すること」。

いまや大家さんという仕事は20年、30年前と違って、完全なサービス業です。その認識と実践は絶対に欠かせません。

──賃貸経営を検討している方々へメッセージをお願いします。

【長谷川】ここまでお話ししたことに加えるとすれば、パートナー企業を選ぶとき、いいことばかり提案するところは考えものですね。やはりあり得べきリスクをきちんと説明してくれて、メリットでもリスクでも、その客観的な根拠を示してくれる企業であることが第一条件になると思います。

そして賃貸経営イコール大きな金額の投資です。それだけに、タイミングもとても重要です。よいパートナー企業、よい物件、市況など、自分にとってベストな条件が整ったとき、ぜひ満を持して成功へのスタートを切ってください。