満足のいく治療は、やはりお金次第なのか?

それでも満足のいく治療が受けられるのなら……と思う人は多いかもしれませんが、これは最低限の治療にかかる金額といっても過言ではありません。たとえば、手術することになると別途費用が発生し、大金が必要となります。

治療に妥協したくないため免疫療法や粒子線療法、未承認の抗がん剤などの先進医療による治療を受ける場合は、保険適用外となってしまいます。そのため、これらの治療を受けるのに1回数万円から数十万円ものお金が別途かかります。

また、名医に診てもらいたい、となると、場合によってはかなり交通費がかかることもあります。私の知人で大阪にいる名医にパートナーを診てもらうため、月に何度か東京から新幹線で通っている人がいました。こうなると交通費以外に宿泊費もかかることがあります。この知人の場合、パートナーがひとりで行ける状態ではなかったため、2人分の交通費、宿泊費がかかったとのことでした。また、主治医を代えることで、最初の3カ月間は月8万8800円の治療費を用意しなければなりません。

そこまでしなくても、と思う人もいるでしょうが、どこまでも希望を追い求めたいと思うのが家族です。私の妻の場合、主治医から「治るとは思わないでください」といわれています。そのため先進医療を受けたり、名医に診てもらったりすることで、せめて寿命が延ばせるのなら、お金さえなんとかなれば、先進医療や名医に望みをかけたくなるのはいうまでもありません。私の妻の場合、お金がないために、これらの選択肢がなくなっているのです。

わが家以上にお金のない闘病者のなかには、高額療養費制度が適用されたところで毎月4万4400円も払えないため、治療をあきらめる人もめずらしくはありません。逆に、お金があっても、治療がつらくて精神的に限界を感じてしまって治療をあきらめる人もいます。

今、私の娘は11歳で、これから思春期を迎えます。妻の命があと2、3年で尽きるのと、あと5、6年で尽きるのとでは、娘の人生が大きく違ってくる、といっても過言ではありません。それが先進医療や名医に望みをかけることで、寿命が5、6年と延びる可能性は高くなるかもしれないのです。もしかしたら、可能性は少ないのかもしれませんが、完治も望めるかもしれないのです。このようなことを考えると、高額療養費制度だけでは満足のいく闘病はできない、といえます。