不快にさせずに遺言を書かせるコツ

「高齢化が進む現在、親に遺言書をどう書いてもらうか悩む人が増えています」と語るのは、NPO法人遺言相続サポートセンター理事の本田桂子氏。解決策はあるのか。本田氏が言う。

「一つのやり方として、まず自分自身が遺言書を書いてみることをおすすめします。自分が体験してみると、親にすすめるときにも説得力があるんですよ。『私、遺言を書いたんだ』と言えば、親も『なんで?』と疑問を返してくる。そこから、遺言書を書くことのメリットを話せばいい。遺言書には、自筆のものと公証役場で公証人に作成してもらう公正証書があります。最初は自筆でいいでしょう。市販の『遺言書キット』を使ってみてもいいと思います」

書店で購入できる『遺言書キット』のなかでも、最もメジャーなコクヨの商品は、17万部を売り上げている。

コクヨから発売されている遺言書を書くための用紙、封筒、ガイド本のキット。

コクヨの広報担当者は言う。「主なターゲットは30から50代の現役世代で、購入者の35%がその世代です。購入目的としては、自分自身の遺言書を書くためのほうが多い。親のために購入し、それをきっかけに相続の話を始めたという方も全体の10%ほどいらっしゃいます」

井上さんも、遺言書キットを使ってみた。そして今年の正月、父親に遺言書について尋ねてみると、思った以上に興味を示した。

「父も遺言書は残したいと考えていたようです。いいきっかけになったと言っていましたね。結果、持ち家と預金と合わせて4000万円程度の財産の相続、母の認知症が進んだ場合には私が財産を管理することなどを、まとめてくれました」(井上さん)

ただし、自筆の遺言書では、不安も残るのが現実だ。本田氏は、最終的に公正証書にすることを強くすすめる。

「実は、残された自筆の遺言書の多くが様式不備で無効になっているんです。全文が自筆でなければいけませんし、相続人の名前や財産の表記などの固有名詞にも正確性が要求されます。住所などの記載も登記簿通りに書かないと手続きできません。公正証書なら公証人が登記簿謄本などの資料をもとに法的に問題ない文書を作成でき、本人は署名をすればいい。手間や費用がかかるとはいえ、後顧の憂いを断つには公正証書が絶対にいい」(本田氏)