無から有は生まれない曲づくりの舞台裏

もちろん、40代の時期も音楽活動は並行していました。よく「激務のなかで、よく二足の草鞋を履けましたね」といわれます。ただ、自分ではそうしているつもりはなかったですね。

1曲つくるのにかかる時間は、約3時間。年に約50曲つくっていたので、年間150時間です。一方、銀行の仕事は、残業や休日のお付き合いのゴルフも含めて、年間2400時間費やしていました。それに比べたら、何でもありません。お正月休みにまとめて30曲つくってしまうこともあって、そもそも普段、作詞作曲の作業に時間を割くことがほとんどないのです。

また、自然と創作の意識を24時間持ち続けるようになっていきました。歌のヒントになるものを私は「歌種」と呼んでいて、その歌種は日常に潜んでいるものなのです。

たとえば証券部時代、同僚たちと飲んでいたら、ある女性が自分の仕事ぶりを反省しながら、「昨夜、とてもいい夢を見たの。仕事中も夢が頭に残っていて、上司に呼ばれてもすぐに席を立てなかった。昨日の夢に腰かけていたみたいで、ダメね」と話しました。

そして、その言い回しに触発されてできた歌が「昨日の夢に腰かけて」。男は青春時代、熱い夢を描きます。社会人になるとそれを忘れてしまう。でも、いまでもどこかで夢の尾っぽを引きずっている……。彼女は決してそうした意味でいったわけではありませんが、彼女の一言から歌詞のイメージが一気に浮かび上がってきました。

歌種は普段の仕事や生活に隠れています。「歌をつくりたい」という気持ちを常に持っていれば、自然とそれを見つけて取り込めます。創作で、「無から有が生まれる」というのはウソ。それは仕事も同じで、いつも考え続けているからこそ、商品開発など新しいアイデアが生まれてくるのです。

行内には、私が音楽活動をしていることについて、いい顔をしない人もいました。合併して第一勧業銀行になり、行員は急に増えました。仕事で付き合いのない遠い人は、私が何をしているのか見えないから、そういう気持ちになるのかもしれません。

ただ、曲づくりをやめるつもりはなかったし、人事部は音楽活動を止めるのでもなく、かといって利用するでもなく、温かく無視してくれました。他行の人から「うちの銀行ならキミは辞めさせられる」といわれたこともあります。環境に恵まれていたのでしょう。