心を開くための10カ条

本の中では、心を開く10カ条として「10文字の心のアルファベット」を紹介した。これを木製のビーズにして、誰もが使えるようにしてくれた人がいる。わたしも毎朝、そのビーズを使って10カ条を思い出し、日中はポケットの中に入れて持ち歩いて、ときどき触れてみる。日々の生活では気が散って、何をしようとしていたのかを忘れがちだし、心を乱されることもあるだろう。そうしたときに手で触れられるものがあると、自分のゴールや意図が何だったのか思い出せる。

●COMPASSION【共感】
共感とは、他者の苦しみに気づき、その苦しみをやわらげようとする意識だ。他者に共感するには、自分に共感しなければならない。自分に厳しくあたりすぎ、他者に差し伸べるのと同じやさしさを自分にゆるさない人は多い。自分に本当にやさしくできなければ、愛とやさしさを他者に与えることはできない。

●DIGNITY【尊厳】
尊厳は、どんな人にも生まれながらにして与えられているものだ。人は誰しも、その存在を知られ、認められる価値がある。わたしたちはよく、見かけや話し方やふるまいで他者を判断してしまう。多くの場合、そうした判断は否定的であり、間違っている。わたしたちは他者を見て、こう考えなければならない。「彼らはわたしと同じ。わたしの望みも彼らの望みもひとつ。それは幸せでいること」。

●EQUANIMITY【平静】
困難なときにも気分にムラがない状態でいること、それはいいときにも悪いときにも役に立つ。人はいいときの高揚した気分を保とうとする傾向があるが、高揚を保とうとすれば、悪いことから逃げるときと同じように、「いま、ここ」にいることができなくなる。いいことも悪いことも長くは続かない。気持ちを一定に保つことで、頭と意志が澄みわたる。

●FORGIVENESS【ゆるし】
ゆるしは、人間が他者に与えられる最高の贈り物だ。そして、自分にとっても最高の贈り物だ。怒りや憎悪を誰かに抱くことは、誰かを殺すために自分が毒を飲むようなものだ。他者との関係も毒される。世界への見方も毒される。人はみな、はかなく脆い存在で、人生のいろいろな局面で、自分の意に反して、誰かを傷つけたり苦しめたりしてしまう。

●GRATITUDE【感謝】
感謝とは人生の恵みを認めることだ。たとえそれが痛みと苦しみに満ちていたとしても。世界中で多くの人が苦しみ、よりよい人生への希望を持てない状況にいる。それなのに、わたしたちは、お互いを見くらべて嫉妬したり羨んだりしてばかりいる。ほんの一瞬の時間を割いて感謝するだけで、突如として自分がどれほど恵まれているかに気づくだろう。

●HUMILITY【謙虚】
人はみなプライドを持っている。自分がどれほど重要な人間かを他人に知らせたがる。自分が他人よりどれだけ優秀かを示したがる。だが実際は、そんな気持ちは不安の表れだ。人はみな、自分の価値を自分以外の人に認めてもらいたがる。だが、そうすることで自分と他人を切り離してしまう。誰しも自分と同じように、いいところも悪いところもあることを認め、お互いを等しい存在として見ることができたとき、人は本当につながり合える。

●INTEGRITY【誠実】
誠実さには意志が必要だ。誠実であるにはまずあなたにとっていちばん大切な価値を決め、他者とのかかわりの中でその価値を絶えず実践しなければならない。人の価値観は簡単に崩れ、最初は崩れたことに気づかない。だが、一度誠実さを曲げてしまうと、二度目ははるかに曲げやすくなる。最初から不誠実を目指す人はいない。油断せず、真摯に励まなければならない。

●JUSTICE【正義
正義とは、正しいことがなされるのを見たいという、すべての人の中にある欲求の表れだ。リソースと特権のある人にとって、正義を手に入れることはそれほど難しくない。だが、わたしたちは弱い人や貧しい人の正義を守らなければならない。弱い人のために正義を求め、彼らを気にかけ、貧しい人に与える責任が、わたしたちにはある。それがわたしたちの社会と人間性を決め、人生に意味をもたらす。

●KINDNESS【思いやり】
思いやりとは、自分への見返りや賞賛を求めずに他人が大切にされるのを見たいと思う気持ちにほかならない。親切な行いはその受け手だけでなく送り手にも役立つことが、研究でも証明されつつある。親切な行いは波のように広がり、友だちや周囲の人を親切にする。思いやりはよい気分を生み出し、いずれ自分に戻ってくる。自分が他者から思いやりを受ける番になる。

●LOVE【愛】
無償の愛は、あらゆる人とあらゆるものを変える。愛にはすべての美徳がある。愛は傷を癒やす。最後に癒やしをもたらすのは、テクノロジーでも医療でもなく、愛だ。愛こそが人間を人間たらしめている。

James R. Doty, M.D.(ジェームズ・ドゥティ)
スタンフォード大学医学部臨床神経外科教授。スタンフォード大学共感と利他精神研究教育センター(CCARE)の創設者兼所長。ダライ・ラマ基金理事長。カリフォルニア大学アーバイン校からテュレーン大学医学部へ進み、ウォルター・リード陸軍病院、フィラデルフィア小児病院などに勤務。米陸軍では9年間軍医として勤務した。最近の研究対象は、放射線、ロボット、視覚誘導技術を使った脳および脊髄の固形腫瘍治療。CCAREでは共感・利他精神が脳機能に及ぼす影響、共感の訓練が免疫をはじめとする健康への影響などの研究に携わっている。起業家、慈善事業家としても幅広く活動。
(構成・撮影=瀧口範子)
【関連記事】
「自分の人生を生きていないとき」人は病気になる
伊集院静「不運だと思うな。苦しい時間が君を成長させる」
「Good」で幸せな人は、そこでおしまい
「他人の不幸は蜜の味」は科学的証明済み
日本男子は、なぜベビーカー女子を助けないのか