プーチンの「禁酒」はなにを意味するのか

振り返れば、こうした日本とロシアの邂逅は、これまでも一世紀単位で繰り返されてきました。そして、日ロ領土問題の大きな転機には、必ず「クリミア」が関わっているのです。

1853~56年にかけて英仏らとのクリミア戦争で敗北したロシアは、中国や日本といった「東方」への関心を示しました。そのなかで日本はロシアと領土交渉を成功させ、1855年に日露和親条約を締結。次いで1945年、クリミア半島のヤルタで米・英・ソ首脳が会談を行い(ヤルタ会談)、第二次世界大戦の終戦後、日本は南樺太をソ連に返還し、千島列島をソ連に引き渡すべきと決定しました。これが北方領土問題の始まりです。そして3度目の転機が、14年の「クリミア編入」です。西への活路が断たれたロシアは、再びシベリアや日本といった東方への関心を強めています。

このようなプーチン率いる現代ロシアのシフトチェンジを、私は「脱欧入亜」と呼んでいます。ロシアは「アジアの国」になろうとしているのです。

歴史的にロシアは、「ヨーロッパの周辺大国である」という強い自意識がありました。例えば元大統領メドベージェフなどの伝統的なエリートは、総じてヨーロッパ志向です。一方、プーチンはアジア志向です。プーチンはロシア正教の保守的な宗派を信仰しているとみられています。私は何度か会食を共にしたことがありますが、彼は酒もタバコも一切口にしません。その思想は厳格主義であり、現代の「保守ロシア」を代表するものです。プーチンが東を目指すのは、ロシア正教の東方信仰の影響(※)もあると考えられます。