企業文化を変えるのに、理論は通用しない

エイチ・アイ・エス(以下HIS)はゼロから私がつくってきた会社ですから、新卒を採用して同じ文化の中で育っていきます。しかし、2010年から社長に就任したハウステンボスは、文化がまったく違いました。私が行ったときは、18年間ずっと赤字で、10年ほど前に1回潰れ、また破綻の危機にありました。社員の多くが40歳以上。バックグランドはさまざまでしたが、ハウステンボスが本当に好きな人と、ゆっくり仕事をしたいという人が残っていました。

エイチ・アイ・エス会長 澤田秀雄氏

当初、ハウステンボスの社員は私のことを「また来た。どうせ2、3年で代わるんだろう」と斜めに見ていたでしょう。私が来るまでに8人、社長が代わっていたので仕方ありません。来る社長、来る社長、最初はいいことを言うけど、頑張っても給料は上がらないし、ボーナスも出ない。すっかり負け癖の文化がしみついていたのです。

文化を変えるのは、とても大変なことです。文化はいわば習慣のようなもの。禁煙しなさいといっても、見えないところでタバコを吸ってしまうのと同じです。

自分のやり方ができあがっているところに、いきなり「もっと働け」と言っても、抵抗感を示されます。そのことは承知していましたが、やはり文化を変える必要はある。そこでとにかく「明るく振る舞う」「朝会社に来たら15分掃除をする」など、皆が理解できる、簡単なことをお願いしました。

HISの幹部に対してはランチェスター戦略や孫子の兵法など、戦略論について話をすることがありますが、それは共有している文化があるから。ハウステンボスでそれをやっても、伝わりません。論ではなく、習慣を変えることにすべてを注いだのです。

口で言っても「またか」と思われるだけですから、上が率先垂範しました。新しい試みをするときは、まずやって見せ、それから教えて実行させることが大事です。

HISからも人を送り込みましたし、私も長崎に住民票を移し、月の半分以上はホテル住まいをしながらハウステンボスの再建案を練りました。住民票は戻しましたが、今でも月の3分の1から半分はハウステンボスに行っています。