理屈抜きの五感のマネジメントをロジカルに切り替える

相手が少人数なら、相手のことを理解するのはそう難しくありません。私もかつて課長時代、部下はせいぜい6、7人。課の中は同じような学校を出て、同じようなキャリアを歩んできた社員で構成されているので、バックグラウンドもわかります。

経歴や家族構成、趣味・嗜好、性格など、部下のバックグラウンドを知っていれば、出勤したときの「おはよう」の言い方一つで、部下がきょうは機嫌がいいのか悪いのか、体調がいいのか悪いのかまで察知することも難しくない。挨拶のトーンがちょっと低いけど、朝、家族と喧嘩でもしたのかなと思うわけです。

しかし、理屈抜きでの五感のマネジメントが通用する世界は、ここまでです。当社では支店長になると、数十名規模のスタッフを抱えます。男性ばかりでなく女性もいるし、年齢も若い人から同じくらいの世代、さらにその上と幅が広い。転勤が当たり前の人もいれば、転居を伴う転勤がない人もいる。価値観もバラバラです。全員に「おはよう」と言っても、その人がどういう状況にあるのかまで、毎日はわかりません。

そうなると、五感の理解をロジックによる理解に切り替えるしかありません。自分が何を考えていて、この支店はどういう方向に向かっていくのか。ロジックをきちんと組み立てて、伝える努力が欠かせなくなるのです。ロジックは、基本的にぶれないことが重要です。誰に聞かれても同じことを答えられなければなりません。

さらに、論理構成がシンプルであることも大切です。私が従業員組合の専従になったときは、1万3000人の組合員を相手にしなくてはなりませんでした。一つの支店以上にさまざまな人がいます。どの人でも理解できるようにロジックを「磨き」、話はシンプルでわかりやすくないと伝わりません。

多くの人を相手にするときは、「てにをは」など、ニュアンスにも気をつけましょう。

これを一つ間違えると、人の心は離れていきます。たとえば、いい仕事をしている社員のことを「彼はいいね」と言ったとします。単純に褒めているだけですが、横で聞いていた人が「なんだ、俺はダメなのか」と受け止める可能性もある。言葉遣い一つにも、細かい注意を払う必要があるのです。

野村HDグループCEO 永井浩二
1959年、東京都生まれ。81年中央大学法学部卒業、野村証券入社。豊橋支店長、事業法人一部長などを経て2003年取締役。専務、副社長などを経て12年4月より社長兼野村HD執行役員。同年8月より野村HDのグループCEOを兼務。
 
(Top Communication=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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