「その仕事で自己実現できるか」

彼らが実践する大胆な手法はもちろんそれだけではない。なかでも興味深いのは、担当者の「マインドセット」(考え方や価値観)に対するアプローチだ。IDEO Tokyoディレクターの野々村健一氏は、仕事が個人の自己実現になるように仕向けることの大切さを話す。

「自己犠牲の精神が強い日本では、個人の自己実現というのは軽視されがち。しかし、売り上げ目標という考えを1回置き、個人としてプロジェクトに熱意を持てるかが最も大切です」(野々村氏)

新しいビジネスや製品を開発するときは前例がないことが多い。不確実性の多い中、次々と起こる環境の変化に対応しなければならない。すると、いかに論理構成されていても、熱量が高くなければ開発がストップしてしまうという。そのためIDEOでは「そもそもなぜこの仕事をするのか」などの「問いかけ」を通してビジョンや仕事をする意義を明確にするプロセスを必ずたどる。サラリーマンならばやりたくない仕事をやって当たり前、という空気感が日本にある中で、熱意の流動性を高めていくことは、これからのマネジメントに必要な視点かもしれない。

ところが、ここ数年「カイゼン」に注力してきた日本の企業は、新しいものを生み出すためとはいえ、これらのまったく未知のアプローチを素直に受けつけるとは言い難い。実際、どの企業も「カルチャーショック」を受けるという。だからこそ、IDEOは日本の組織を変化させるための触媒を目指している。

次回は、IDEO共同経営者のトム・ケリー氏のインタビューを中心に、IDEOの発想法と、日本の大企業が直面する課題に迫る。

マイケル・ペン
IDEO Tokyo共同代表。マネジングディレクター。カリフォルニア大学バークレー校で脳神経外科の学士号を取得。2006年にIDEOに参加。11年より東京で勤務。
 
野々村健一
IDEO Tokyoディレクター/リードビジネスデザイナー。慶應義塾大学卒業後、トヨタ自動車にて海外営業や商品企画を担当。米ハーバード・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)取得後、IDEO Tokyo立ち上げに参加。